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大人が子供のこだわり行動を受け入れると、指導が変わる

こだわりを受け入れる心構えをもっていれば、一呼吸おいて余裕をもって対応できる。

長野県公立小学校教諭 中村晋也



「くそ!ふざけんな!」
体育の授業でサッカーの試合に負けた時、Sくんは大声で叫びました。ゴールポストの近くでしゃがみ込み、動けなくなってしまったのです。Sくんは自閉スペクトラム症(ASD)の診断がある子でした。
Sくんは勝負事でしばしば激昂することがありました。遊びの中で負けた時、給食のおかわりじゃんけんで負けた時、カルタ対決で負けた時、Sくんは勝ち負けにこだわりました。そんな時に相手が喜ぶ姿を目にすると、Sくんは特に激しく怒るのでした。
Sくんのように、勝ち負けにこだわるお子さんは少なくありません。中でも自閉スペクトラム症のお子さんはこだわりが強く、生活に支障をきたすことがあります。次の授業があるから、などとこちらの都合を伝えてみても逆効果です。こだわりへの対応で、私が心がけていることを紹介します。

1 子供のこだわりを「受け入れる」心構えをもとう

「こだわり行動」=「わがまま」ではない

『小嶋悠紀の「特別支援教育究極の指導システム」②』(小嶋悠紀著 教育技術研究所)

この言葉にハッとさせられました。Sくんは、「わがまま」で大人を困らせようとしているのではなく、特性で勝ち負けが気になって仕方がなかったんだ、落ち着く時間が必要だったんだ、と気付きました。勝負に負けて不安定な気持ちを何とか落ち着けようとしているSくんに、「そんなこと言うんじゃない!」「そんなところでしゃがむんじゃない!」と強い言葉をかけてはいけないと思うようになりました。
大人が子供のこだわりを「受け入れる」姿勢をもったことで、最初の声がけが変化しました。一呼吸おいて「負けて悔しかったのかな」「さっきは悲しかったよね」と優しい言葉をかけられるようになりました。

2 子供の都合を第一に考えよう

ある日、Sくんは授業終了のチャイムが鳴っても一向に動く気配がありませんでした。次の授業もあるので教室に戻らなければならない、他の子供たちも連れて行かなければならない、大人もイライラが募ります。しかし、それはこちらの都合です。SくんにはSくんの都合があります。そこで、他の子供たちを教室に向かわせてSくんの側に行きました。やはり試合に負けたことが悲しかったようです。
「そうか、悲しかったよね。もうちょっと落ち着く時間が必要かな?」
Sくんは頷きました。
「分かった。じゃあ落ち着いたら、教室においで。何分くらいで来れそう?」
Sくんは15分と答えました。私は、管理職の先生に状況を伝えて見守りをお願いし、教室に戻りました。授業を進めていると、Sくんが戻ってきました。あの時、「授業だから行くぞ!」と無理やり教室に戻そうとしたら、さらにヒートアップしていたかも知れません。ちなみにSくんは13分で教室に戻ってくることが出来ました。自分で決めて戻って来れたね! とグータッチしました。
子供のこだわりを受け入れ、子供の都合を第一に考えることで、子供にちょっとだけ優しくなれたような気がします。Sくんと出会ったおかげで、私自身、余裕をもった対応ができるようになりました。イラストを描き続ける子、タブレットでゲームをし続ける子に、いきなり高圧的な指導をするのではなく「どうしたのかな、どんな都合でそうなっているのかな」と考えられるようになりました。こだわり行動に対応する時、一呼吸おいて対応してみてはいかがでしょうか。


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