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不登校の子どもたちをどのように理解し関わるか~基礎編~1 子どもを取り囲むさまざまな要因が絡み合う不登校

小柳憲司(長崎県立こども医療福祉センター 小児診療科)

1 子どもを取り囲むさまざまな要因が絡み合う不登校

 私がいる長崎県立こども医療福祉センターの心療科を受診される子どもや親の主訴として一番多いのは不登校です。発達科には「発達障害じゃないか」と受診されますけど、心療科には「学校に行かなくなった」とか「いろんな問題が生じて」ということで来られます。その中に発達障害のある子どもがたくさんいますので、そこを注意して診ています。
 もう一つ大切なのが「養育に関わる問題」で、不登校以外にも、虐待やネグレクトの子どもも一緒に診ています。児童相談所から相談を受ける子どものケースもあります。一番大切なことは、不登校の原因は単純ではなく、さまざまな因子が絡み合っているということです。
 では、本編にいきます。文部科学省による不登校の基準として「年間の欠席日数が30日以上」とあります。しかし、医学的には何日休もうと何をしようと学校に行かないのは不登校になりますし、保健室登校や適応指導教室なども含めて学校に行けていないような状態だと考えていきます。(下図1参照)

 「不登校」と簡単に言いますが、それにはいろんなことが関わっていて、実は全然一律ではありません。個々の症例に合わせて、できることを一つ一つ考えていく必要があります。
 不登校がどのくらい多様かというのをおおまかに話します。表示した資料には年齢に分けてありますが、不登校は小学校低学年の子と高学年・中学生ぐらいの子、またそれ以上の子どもでずいぶん様相が変わります。(下図2参照)

 低学年で一番目立つのは不安が強くて学校に行けない子どもです。親から離れることの「分離不安」で行けないとか、「緘黙」のような感じで緊張して固まってしまう子どもです。緘黙の子どもが全員学校に行かないわけではないですが、不登校になる子どもも結構多いです。そういった不安や緊張が絡む子どものほかに、「衝動コントロール困難」による不登校もあります。衝動コントロール困難というのは、「自分のしたいことしかしない」子どもです。「したくないことはしない、面倒くさい、もういいや」のような感じで学校に行かなくなる子ども、そういった子どもには発達系の問題が関係している場合が多いと考えられます。
 中学生ぐらいになると、「学習困難」の要因が考えられます。勉強が難しくなり、ついていけなくなった子どもです。小学校低学年ぐらいまではやっていけますが、高学年から中学生になってくると、勉強が理解できなくなり、周りの流れについていけなくなって「もう行きたくない」みたいになってしまうのです。
 それから、体調不良が要因になることも中学生の不登校では結構みられます。
 上図2には「起立性調節障害」とありますが、これは思春期のさまざまな自律神経の問題で具合が悪くなり学校に行けなくなるものです。朝起きられなかったり、頭が痛くなったりするような病気です。具合が悪くて休んでいると、だんだん学校から足が遠のいて、周囲の流れに乗っていけなくなります。学校では自分以外の子どもは基本的に元気ですから、その中に入ると「きつくてやっていられない」ようになって、行けなくなります。頭が痛くて机に伏せて寝ていたら先生から叱られます。そうしたら「もう学校なんか行きたくない」みたいな感じになってしまうのです。
 実は起立性調節障害は身体を動かさないことによって悪化します。友達関係のトラブルとかいじめがらみで学校に行けなくなると、家で黙ってゲームをしたりテレビを見たり、寝る時間が長くなります。そして活動性が減ると、起立性調節障害が発症します。この障害は動かないことによってひどくなるので、余計に悪化してしまうのです。
 高校生になると、今度は、入学後に「思っていた高校と違う」という理由で不登校になる子がいます。また、地方の進学校はものすごく勉強させることが多く、宿題に無茶苦茶な量のプリントを出したり、ものすごい時間を使って補習をさせたりしているうちに、真面目な子ほど一生懸命プリントをやり、睡眠時間を削って勉強していき、うつの状態になって学校に行けなくなることが起こってきます。適当な子はいいのです。「ああ、友達のプリントを適当に写しとこう」みたいな感じの子は決して不登校にはならないし、うつにもなりません。でも真面目な子はなってしまうのが難しいところです。それと、高校生以上になると「統合失調症」が発症して不登校になる場合もあります。

(2.不登校の発現に関わる3つの因子 へ続く)


小柳 憲司(こやなぎ けんし)
長崎県立こども医療福祉センター副所長/長崎大学医学部・教育学部非常勤講師/長崎医療技術専門学校非常勤講師
長崎大学医学部卒業後、長崎大学医学部付属病院などで一般小児科の研修を行う。
こども心身医療研究所、NTT西日本長崎病院小児科を経て、平成13 年4 月から長崎県立こども医療福祉センター勤務。 専門は小児科学、心身医学。
【著書】
『子どもの心療内科』(新興医学出版社) /『学校に行けない子どもたちへの対応ハンドブック』(新興医学出版社)
【分担執筆】
『小児心身医学会ガイドライン集̶改訂第2 版̶』(南江堂)/『初学者のための小児心身医学テキスト』(南江堂)


※この記事は2019年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 第13号』に掲載されたものの再掲です。
また、この記事は2019年6月22日に行われた「TOSS特別支援教育セミナーin東京」での講演を基に構成されています。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/

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