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<ミニ特集>文部科学省調査「小中学生8.8%、発達障害の可能性」を考える①

特別な配慮を要する児童生徒への対応法を大学生に学ばせる

卒業をすれば、すぐに教師として教壇に立つ大学生だからこそ、現場で役立つ内容を演習形式で授業する。

関西外国語大学教授 松﨑力

1 学生の関心
 現在、私が受けもっている講義は、教職を目指す学生と単位確保に受講する学生とがほぼ半数ずつとなっている。
 講義内容をすべて教職に関する内容に特化してしまうと、教職への関心が低い学生にとっては、満足感を得られないことが多くなる。そのような学生にとっても身近な話題として考えるように、「将来、あなたの子育てにも必ず役立つ」という内容と絡めながら、講義を進めている。
 学生が特に高い関心を示すのが、発達障害児を含む特別支援を要する児童生徒への対応法の講義である。それは学生の雰囲気で分かる。特別支援に関する内容になると、どことなく張り詰めた雰囲気が漂い、集中度が高まっているように感じる。
 教職を目指す学生にとっては、「教職に就いたとき、自分が受けもつ学級に特別な配慮を要する児童生徒がいるのかもしれない。だから具体的な対応法を知りたい」という思いが垣間見える。
 教職を目指さない学生からも、「先生、塾のアルバイトで、すぐ立ち歩く子がいるんです」と相談がある。そのような子への対応法を知りたいと思っているようだ。
 特別支援教育は、学生にとってすでに身近な問題なのである。

2 「8.8%」の意味
文部科学省が令和4年12月に発表した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」では、「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒は、推定値で8.8%(今回は、小・中学校の数値を扱う)と報告された。
 教職を目指す学生であっても、この数値の意味に実感がない。「一割以下」とし「わずかな数値」と捉える学生もいる。
 しかしこの数値は、「著しく困難を抱える」という児童生徒なのである。上手に対応しなければ、学級運営にも支障をきたす可能性が生じてくるのである。
 この「8.8%」というのは、「あなたが担任をする学級には、特別な配慮を要する児童生徒がいる可能性が著しく高い」という数値なのである。
 むろんあくまでも推定値なので、断定はできない。しかし、私が山間の
10人という少人数学級を担任した時、半数以上、つまり50%以上の児童が、常に逸脱行為を繰り返していたという経験がある。学生を脅すわけではないが、「安穏とした気持ちで教壇に立たない方が良い」という思いは常に伝えている。

3 学生に指導している内容
 文科省が報告した他のデータを見てみると、現状が見えてくる「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の7割が、校内委員会において特別な教育的支援が必要とされているにもかかわらず、通級等の指導を受けている児童生徒はわずか1割に過ぎない。つまりは、ほぼ担任がすべての面倒をみなくてはならないことになる。
 さらに、「『個別の教育支援計画』を作成しているか」という設問に対しては、作成していると答えた割合は18.1%と2割に届いていない。
 また、「『個別の指導計画』を作成している」と答えた割合は、21.4%と2割を少し超えた程度になっている。
 この数値を見ると、「特別な配慮が必要だ」とされている児童生徒に対して、「事前に特別な配慮を用意していない」ということになってしまう。これでは問題行動への後追い指導になり、児童生徒を正しく導くことは難しいだろう。
 私が小学校勤務時代には、「個別の指導計画」を必ず設定していた。この経験から、私の講義の中では個別の支援計画を考えさせる。教職に就く学生はもちろんであるが、教職に就かない学生でも、将来、我が子という大切な存在を育てるには、その子の特性を生かした子育て計画が必要になる。このようなことを話すと、誰もが真剣に取り組み出す。
 まず、ある配慮を要する児童生徒を具体的に設定する。この場合、本人が抱えている困難な事例を明確にする(紙幅の関係上詳細は割愛する)。この困難さが、本人の生きがたさであり、周囲にとっては迷惑な行動となってしまう。
 この現状を踏まえて、その子の長期目標と短期目標を考えさせる。長期目標は1年から2年をかけて達成できるような目標とする。短期目標は、数か月単位で達成できるものとするが、現在できていることも入れさせる。互いに短期目標を目指しながらも、容易に達成できる行動があれば称賛の場が増える。褒めることで自己肯定感を高め、他の短期目標達成へとつなげていく。短期目標設定のポイントは、ほんの少しの努力でできることを多く設けるということになる。
 さらに、問題行動が生じた場合の具体的な対処法、その場では絶対にやってはいけないNG対処法なども考えさせる。これらは、グループワークで話し合わせる。他者の多様な考えを知ることで、視野を広げさせていく。
 私は、現場に役立つ実践的な講義内容を学生に提供したいと常に考えている。


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