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<ミニ特集>文部科学省調査「小中学生8.8%、発達障害の可能性」を考える③

発達障害を大学生に「理解」させる〜TOSS教師の超一流の実践

「学級にいる発達障害の子供」を「理解」しているTOSS教師の実践に、学生たちは感に打たれた。

東京福祉大学特任教授 駒井隆治

1 発達障害児への適切な対応とは

 学級に発達障害の子供が8.8%いるのは、すでに現場のリアルである。
 秋期には大学四年生を対象に「教職実践演習」という授業を実施した。教職に就く学生に向けて、学校現場のリアリティをメインに15回実施した。
 第13回では、TOSS教師が書いた書籍をもとに発達障害の授業を行い、学生の思い込みや浅い認識を転換させた。
 それは、水野正司氏『発達障害キホンのキー知らない教師は化石です』(TOSSメディア)という素晴らしい教材である。
 ここには発達障害の事例が大変分かりやすい絵で描かれている。これをもとに以下のような授業を行った。
(1)この子たちを理解して! A子さんの事例
 A子さん(ADHDと診断)は、自分の赤い手袋を拾って、誰の手袋かと皆に問いかけた。
Q:どうしてA子さんは、自分の手袋だと気付かずに問いかけたのでしょう?
A:「大変だ! みんなに聞かせなきゃ!」って一生懸命思ったんだよ。
(2)この子たちを理解して! Bくんの事例
 Bくん(ASDと診断)は、女の子がBくんの作ったカメのような作品を見て「Bくんのカメが上手だと思いました」と言ったら、「カメじゃねえ!」とキレた。
Q:どうしてBくんは、キレてしまったのでしょう?
A:Bくんは、作品を作っているときに「カメを作っている」とは考えていなかった。ゲームのキャラクターである『ノコノコ※』を作っていた。それなのに「カメ」と言われたのでショックを受けた。
 Bくんにとっては想定外で、立ち直れないくらいのショックだったのである。

※任天堂「スーパーマリオ」シリーズのカメのキャラクター。

(3)この子たちを理解して! Cくんの事例
 Cくん(ASDとADHDと診断)は、先生が「みなさん、これから体育館に行きます」と言ったら混乱してしまった。
Q:Cくんは他の子が喜んだのに、なぜ困った様子をしていたのでしょう?
A:Cくんは、先生が遠くから「みなさん」と呼び掛けても自分に対して向けられた言葉と思わない。周りの子供たちの喜ぶ声を聞いて「何が起きたのだろう?」と思って、1人取り残された感じになってしまった。「聞こえていない」のである。
 このとき「聞いていない」等と非難してはならない。
「努力が足りない」などと精神論で非難したら理解できないばかりでなく、二次障害を引き起こす原因になる。

2 発達障害の関係式

Q:次の2人とも発達の凸凹があります。この2人のうち、発達障害はどちらですか?
【Dくん】少し落ち着きがない。勉強は大丈夫(IQ:95)。トラブルが多い。
【Eくん】「超」落ち着きがない。多動。勉強は少し苦手(IQ:80)友達関係が良い。
 学生に尋ねたら、意見が分かれた。
 教員では、どうだろうか? おそらくEくんを選ぶ方が多いと思う(教員は「勉強ができない=発達障害」と考える傾向があると思う)。
A:Dくん。
以下、2つの関係式で判断する。
①発達凸凹≠発達障害 
発達凸凹はだれにでもある。IQだけでは決められない。
②発達凸凹+トラブルが多い≒発達障害
人との関係がうまくいかない。これが発達を阻害する。そして、不安と不満をもち、「叱られた」「自分はダメだ」と自己否定する。

3 暴れるFくんに対応するプロフェッショナルな教師の対応

 これは、TOSSで学ぶG子先生の実践である。
 教室に入ると、子供たちがどっと駆け寄ってきた。
 それぞれが緊迫した口調で、口々に事態を告げる。
「先生! 大変だよ!」
「Fくんが、Fくんが、」
「早く! 先生! 早く!」
 私が職員室に降りていた間に、ただならない事態が生じたようなのだ。
 問題のFくんを私は目の端に入れた。
 隅の方の床に、一人で座っている。ぐるっと教室を見渡した。状況がほぼ分かった。
 窓ガラス、壁、床などが、絵の具の赤で真っ赤に染まっている。子供たちの机の一部も赤い絵の具が飛び散った状態になっている。服が赤くなっている子もいる。……。
 興奮した子供たちが事態を説明しようと次々に話しかけてくる。
 私は、話しかけてくる子供たちを手で制した。
 私を囲んでいる子たち、一人一人目を合わせながら、「にっこり」と笑った。
 ーーこのあとも終始にこやかに対応したG子先生は、見事にFくんを落ち着かせた。
 発達障害を「理解」したプロ教師の対応に、学生たちは感に打たれた。TOSS教師たちの実践は超一流なのである。


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