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パニック発生! とにかく落ち着くまで待つ

静かな環境で行動がおさまるまで待つ。その後、原因を見付けて予防する。代わりの行動を決める。

愛知県公立中学校教諭 辻拓也



中1。帰りの会の前の教室での出来事です。
 
一番前に座っているA君に話しかけました。

「A君。朝に自分で言ったとおり、宿題を出してから帰ってもらうよ」
「えっ、残るの?」
「残りますよ。朝か放課後、どっちで出すか聞いたら『放課後』を選びましたよ」
「え〜」

A君は頭を抱えて下を向きました。
 
直後、着ていたYシャツを引きちぎりはじめました。

パニックがはじまったのです。

はじめてのことでまわりの子もびっくりして悲鳴をあげました。
斜め前にしゃがんで肩にふれました。
目はつり上がり、体は硬くなっていました。
触れた手はすぐに振り払われ、さらに激しくシャツを引きちぎりました。
 
加えて机に頭を打ちつけ始めました。
 
「ドン!ドン!」

帰りの会は異様な雰囲気につつまれました。


 教室を静かで落ち着いた環境にするため、すぐに帰りの会を終えて生徒を帰しました。


二人だけになると、A君は頭を机に打ちつけるのをやめて、机に突っ伏しました。
 
しばらくして、また頭を打ちつけはじめました。

「これなら、頭ガンガンしていいよ」

と分厚いタオルを渡したのですがダメでした。

そのままじっくり待つことにしました。

学年の先生に家庭連絡してもらい、私はA君と教室で待ちました。
およそ3時間後。保護者が教室に入ってきました。

「すみません、遅くなって」

すると、A君は突っ伏すのをやめて、体を起こしました。

保護者に事情を説明している間、A君は下を向いていましたが、落ち着いていました。

説明が終わってから保護者がA君に言いました。

「もうシャツは破らないでね」

A君は目線を送ってうなずきました。

私も聞きました。

「おでこ、痛くないかな」
「痛いです」

ボソッとA君は答えました。受け答えができたことを確認し帰しました。


 パニックの起こった翌日、A君に「あの時、どうしたの?」と聞きました。


パニックの原因は「予定変更」でした。
事前に知らせるよう心がけても、直前の変更はどうしてもあります。
その後、A君は2回パニックを起こしました。対応は同じです。


 すぐ静かな環境にして、おさまるまでじっと待つ。


A君は移動を嫌うので、その場を静かな環境にするようにしました。

おさまるまでの時間が2時間、1時間と減っていきました。
そして4回目がくることはありませんでした。

パニックを起こさなくなったのは、パニックにならない方法を本人が身に付けたからです。
 
それは紙細工をつくることでした。

A君は、手を動かして何かをつくっていると心が落ち着くと気が付いたのです。

代わりの行動が見付かってから、彼がパニックになることはなくなりました。


© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan

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