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<ドクター・専門家からの提言>発達障害からギフテッドに

発達障害という概念の行き過ぎが、社会の中で起きている。我が国を背負うであろう子供たちの就学初期の状態が社会不適応を起こすことはまれではない。このような子供たちを「社会を背負う大人」に育て上げることが、教育に課せられた義務である。

どんぐり発達クリニック ギフテッド研究所 宮尾 益知

我々のクリニックは、発達障害の専門クリニックとして、昨年5月に開院した。

多くの子供たちが訪れているが、内訳として自閉スペクトラム症(ASD)が最も多く、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害、その他の順となっている。
最近は知的に高く、発達障害としては特定不能の広汎性発達障害にあたるような幼児、いわゆるギフテッド・チャイルドが受診することが多くなっている。

このような子供たちは、以前は「知的に高いが変わった子供たち」として、一目置かれ、別格として扱われてきた。
しかし、ときには、学童初期・中期に行動あるいは言動から、教師あるいは友達からのいじめの対象となり、学校に適応できなくなり、学童中・後期に不登校になってクリニックを訪れる子供もいた。

我々はこのような子供たちを高機能ASDあるいは高機能ADHDと考え、保護者の理解、教育現場での理解、自己理解、トラウマ治療、SST、薬物療法などを行い、子供たちの回復を待ち、社会に戻す試みを行ってきた。

昨年頃からは、このような動きが幼児期にも及ぶようになり、療育センター経由あるいは親からの受診希望で、「発達障害疑い」あるいはギフテッド・チャイルドとして来院することがまれではなくなった。

たとえば、Sくんは、4才でひらがな、カタカナ、さらには漢字も読めるようになった。興味のある事柄について、自分で図鑑、ネットを通して学びはじめ、恐竜の名前を全て記憶し、それだけでなく、惑星間の距離も知っている。Sくんの質問には、保育士も母親も答えることができない。
母親は疲弊し、時には感情的に対応し、暴力を振るうこともまれではなくなっている。

3歳のTくんは、韓国の、修学旅行の時に沈んだ船に興味がある。
なぜ、どのように沈んだのか、どうしたら防げたのかを、毎日ありとあらゆる面から検索し、母親に議論を持ちかけている。

このような子供たちは発達障害という概念でとらえるべきではなく、いわゆるギフテッド・チャイルドとして考えるべきであると考えるようになった。
特徴は好奇心が旺盛で話し方が他の子と違う。
 
驚くほどの記憶力を持ち、同年齢の児童と比べると、彼らの理解力はまるで大人のようである。
しかし、満足する答えが得られなければ、相手に対して暴力を振るい、大声で叫びだしてしまう。
小学校の低学年までこのような状態は続き、その後に周囲からのいじめ、教師からの叱責が行われるようになる。

私はこのような子供が、以前から診てきた不登校、引きこもりの子供たちの一部であることに気が付いた。
これから、どのような対応をするかが緊急の課題である。我々のクリニックには、幼児、小学校低学年、小学校高学年、中学校、高校、不登校、引きこもりなど沢山の子供たちが存在する。

このような子供たちは、どのような特徴をもつのであろうか。
学童期以降のギフテッドと考えられる、言語性IQが130以上の子供たちについて類型化を試みた。

医学的診断としては、大多数が広汎性発達障害と注意欠如・多動症であり、少数の言語性IQが120以上の子供たちについては、医学的診断としては、注意欠如・多動症および広汎性発達障害であり、少数の特定不能の広汎性発達障害が存在した。
WISCⅣのパターンを比較してみると、言語性が高く、知覚がやや低く、ワーキングメモリーが低い場合と高い場合があった。
共通する特徴として、ほぼ全例の処理速度の優位の低下があった。これらの結果からは、我々のクリニックを受診している、すなわち学校において不適応を起こしている子供たちは、学習に関しては、ノートを取る過程に問題がある子供たちであることが、WISCⅣの結果及び問診から想定された。

診療録から成功例、失敗例を選び出し、比較を行い、予後が良好であるいくつかの要因に気付くことができた。

幼児期より受診し、継続的なリハビリ、心理カウンセリング、診療が行われている場合には予後が良かった。
学校環境では、比較的早期から通級の利用、あるいは、支援級にうつり、社会性の訓練や完璧でなければいけないあるいは重み付けができないなどの考え方を変えていく「まあいいか」の考え方を行っている場合、教師がその子供自身を大事にしてアドバイスをしながら見守って育てていく姿勢がある場合などは予後が良好であった。

保護者が通常級にこだわる場合、教師がその子供の欠点ばかりに注目し、子供の良い点をみようとしない場合、周囲の子供たちからのいじめが顕著な場合、友達はいなければならないという考え方がある場合などは予後が良好でなかった。
学習に関しては、塾で補えている子供が多く、うまくいっている場合には、四年生頃から通常級にうつり、有名私立中学に転校し、高校、大学ともに理数系の自分の好きな分野に進んでいた。

海外においては、このような子供たちへの教育は、通常教育、支援教育とは別に、「ギフテッド教育」としてある程度確立していることが多い。

我が国を背負うであろう子供が育つことのできる社会が望まれる。


宮尾益知(みやお・ますとも)
どんぐり発達クリニック院長。医学博士。
徳島大学医学部卒業、東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、 ハーバード大学神経科、独立行政法人国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にクリニックを開院。
専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学。
発達障害の臨床経験が豊富。
主な著書に『発達障害と情緒障害の子どもの能力を家族全員で伸ばす!』(日東書院)『家族をラクにする魔法のことば』(飛鳥新社)など。


※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

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