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<こだわりの強いあの子…どう対応する?>現状を受け入れるから、対策が見えてくる

生徒には生徒なりの事情がある。それを無視した指導は成り立たない。現状を受け入れることから教育が始まる。

北海道公立中学校教諭 TOSSオホーツク中学 染谷 幸二

自閉スペクトラム症と診断を受けた生徒が入学した。

彼は音に対して敏感だった。厄介だったのは、黒板にチョークで字を書く時の音を聞くと暴れ出すことだった。
気温が急に高くなるとスイッチが入ってしまう。そうなると、所構わず「うるさい!」と大声を出し続けた。

板書しなければ授業にならない。書いたら暴れ出す。多くの教師は困惑した。

「彼がいたら授業にならない」と嫌悪感を示す教師がいた。
「我が儘を許しておいたら将来のためにならない」と言う教師もいた。

これらは発達障害についてまったく理解していない教師の発言である。

彼は黒板とチョークが擦れる音に不快感を示した。そうであれば、黒板に字を書かなければいい。暴れて授業ができなくなるよりも、従来の授業スタイルを変える方が、彼にも学級全体にもプラスになると、私は考えた。

不思議なもので、「板書をせずに授業をする」ことを自分に課せば、代替策が見つかるものだ。

例えば、板書事項をプリントし、それをノートに視写するように指示した。板書事項をスクリーンに映し出したこともある。彼のお陰で授業スタイルに幅ができた。

だからといってまったく板書をせずに授業をすることは現実的ではない。他教科のことも考えなければならない。だから、次の方法を取ることにした。

確認してから板書を始める。

事前に「これから8行分板書します。黒板に書いてもいいですか?」と聞いた。
すると、彼は素直に頷いた。私は極力、音を出さないように板書した。事前に伝えることで心の準備ができたのだろう、授業中に暴れ出すことは1度もなかった。

このことを職員会議で伝えた。2か月後、板書の音に反応することはなくなった。全教師の共通の取り組みによって、彼は1つの壁を乗り越えたのである。


【特徴】
・中学1 年生男子
・診断名:自閉スペクトラム症
・音に敏感に反応する。特に、板書をする際の音に過剰に反応する。
・音楽の授業(特に、リコーダー)はずっと耳をふさいでいる。
・気温が急激に変化した時は調子が悪く、不機嫌になる。
・疲れている時、許容範囲が極端に狭くなり、トラブルを起こす。
・暴れると、クールダウンに時間がかかる。


NG 対応「叱る」「怒鳴る」で指示に従わせようとする

黒板に書く音が嫌いな生徒がいる。
不勉強な教師は「叱る」「怒鳴る」という方法で指示に従わせようとする。反抗すると「手のかかる生徒」というレッテルを貼る。生徒を反抗挑発症にまで追い込んでしまう原因がここにある。
生徒には生徒なりの事情がある。常識では理解できなくても、そこを無視した教育は成り立たない。生徒の事実を受け入れることが教育のスタートである。

効果のあった対応1 現状を受け入れる 

生徒を変えるよりも教師自身の指導法を変えることの方が簡単だ。
現状を受け入れ、そのつまずきを取り除いて授業を組み立てることだ。
それが指導法の幅を広げることにもつながる。教師修業のチャンスである。

効果のあった対応2 事前に告知する

生徒の不安を取り除くためには「次にどのようなことをするのか?」を告知する。それを納得すれば、生徒が荒れることはない。安心して、授業に集中する。
生徒が落ち着く環境を整えることが教科担任の最も重要な仕事である。

効果のあった対応3 「3 年間の猶予がある」と自覚する 

教育に特効薬はない。成長には時間がかかる。
幸い、中学校は卒業までに「3年間の猶予がある」と思えば、気持ちに余裕が生まれる。「叱る」「怒鳴る」という選択肢はなくなる。
長期戦を覚悟するから、策が見つかるのである。


※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/