<そうだったのか! 発達障害児への本当の対応>ADHD症状への具体的対応ライブ中継!①
〜自尊感情を落とさずに対応するキーワードを大公開!〜
長野県公立小学校教諭 小嶋 悠紀
特別支援教育ベーシックトレーナー養成講座~発達障がいの基礎・基本~
2015年4月、長野県長野市で開催。発達障害を持つ子供たちへの対応法を学びたい方々へのオープンセミナーでのADHD児の基本理解と対応の講座。小学校、中学校、高校の教師に加え、保育士、エンジニア、保護者など200名が参加した。本稿ではこのセミナーの一部をテープおこしで再現する。
ADHDを日本語に訳せますか? 隣の人に言ってみてください。
「注意欠陥多動性障害」と言えた人、手をあげてください。
これはですね、診断名が変わっているんですよ。
「注意欠如・多動症」になりました。
「症」っていうのがいいのかどうなのか微妙で、杉山登志郎先生も「障害でいいんじゃないか」と言っています。
ADHDには三大症状があります。3つ正確に隣の人と言いあってみてください。
この3つとは、「不注意」があり、「衝動性」が高く、かつ「多動」であることです。
三年生のときにバタバタ歩いていたのに四年生になったら突然立ち歩かなくなる子とかいるじゃないですか。学級風土とかそういうのも、もちろんあるんですが、脳の抑制が効いてきているんです。
不注意状態。次々に興味がうつっていく状態のことです。小学校一年生。先生がどんなに近くにいても集中がなかなか続きません。
中学校になるともっとわかりやすくなりますね。ボーッとしています。教科書を出して32ページを出して③の問題をやりなさい。って言うと「どこやるの?」って子いますよね。
この子たちを叱ってはダメだと、お医者さんたちは言っています。それは次の話を聞くとわかります。
なぜこのようなことが起きるのか。皆さん、おでこの部分を押さえてもらっていいですか。そこが前頭前野というところです。
そこにワーキングメモリー、作業記憶領域というところがあり、その能力に問題が起こってきていることが脳科学からわかっています。
ワーキングメモリーの研究は本当にたくさんあって、英語論文の検索をかけるとものすごい数が出てきます。ただし、完全には解明されていません。
ワーキングメモリーを伸ばすと全体的な知能が上がるという研究結果も出ています。これも1つの科学的な主張です。
前頭前野って人間らしさを司る機能なのですが、その一番の実行機能がワーキングメモリーです。
どうも私たち人類がサルの時代からあるみたいです。
「目の前にあるリンゴをねらいながら、こっち側の枝をつかむ」とかね。生物学的な進化過程で獲得されていったようです。
では、皆さんにもあるワーキングメモリーを使って、私の携帯電話番号を覚えてもらいますからね。メモとっちゃだめですよ。
090……覚えましたか? はい。(090……)
はい、ありがとうございます。結構ワーキングメモリーありますね。正常域です。3つ4つあれば大人としては正常域です。
2つぐらいの人、生きづらさを感じていますね。家事をやっていてお鍋焦がしてしまうとか。
1つしかない人は相当生きづらいですね。次から次に物を忘れます。これもやっていない、あれもやっていないと。ネクタイ締め忘れたとか。そういうのがしょっちゅうある人です。
ワーキングメモリーが3つあって、3つの指示を覚えておくことができる子が優秀な子たち。児童会長タイプと私は言っています。全部覚えて全部実行できます。
だけどワーキングメモリーが1個しかない子たちは、教科書を出して、32ページを開いて、3番をやりなさい、と言われると、3番をやりなさい、だけがぐるぐるぐるぐる頭の中をまわります。
で、別のページの3番をやってしまうんですよ。
「ちがうよ」と言うと「ここだ!」「僕はここをやりたい」ってこだわりが入ったりして。
そういうとき、やってしまった、僕の言い方が悪かったな、支援の仕方が悪かったなって思うんです。
子供は32ページが抜けてしまうんですね。
「話を聞いていたのか!」と言われてしまうんです。
発達障害の子たちに嫌味とか皮肉を言っても意味が無いです。
信頼関係が結ばれている高学年の子たちに、たまに言うときはありますよ、冗談で。
「そんなこと言わないでくださいよ〜」とか笑って言ってきますけどね。でも冗談は全然通用しないですから。
はい。さっきの僕の電話番号言ってみてください。
(090 ????)
言えないですよね。今、わざとワーキングメモリーをオーバーフローさせたんですよ。これがADHDの子たちの状態。皆さんもマイク向けられなくてよかったなって思ったんじゃないですか(笑)。
教室では、こうなると教師からこう言われるんです。
「なんで忘れるんですか! 人の電話番号忘れるなんて失礼でしょ! 立っていなさい!」
これやられるとキツいですよ。
ADHDの子供は、毎時間毎時間やられてしまうんです。特に、初任の先生たちがやってしまうんです。
だから赴任してすぐに教えました。ワーキングメモリーが少ないから、何度も言ってあげてくださいね、と。
「32ページだぞ〜。32ページだ。32ページ」
こうやって、できるまで言うんですよと。
しつこいかもしれないけど、何度も言ってやると、これ重要なのかなって勘違いするんです。
“ブロークンレコードメソッド”って知っていますか?
同じような情報を、何回も、変えずに言う。
ASDの子に、例えば何かこぼしてしまったときに「拭きます」「拭きます」「拭きます」と言う。でもブロークンレコードメソッドが通用するのは一部の子供たちですよ。
これを、知的なASDの子たちにやると、バカにされていると思うみたいですね。だから変化させるんです。
「32ページだよ。そう32ページだよ。すごいなー。32ページ」というように、変化させながら言っていくのが1つのテクニックなんです。
ワーキングメモリーに対して、指示を一つ一つ出すということが大事なんです。「教科書を出しなさい」「32ページを開きます」「③の問題をやりなさい」という形でやっていくといいのです。
ワーキングメモリーが1つということはですね、1つのことで頭が占拠されがちになってしまいます。
例えば、下校したのになかなか帰ってこない子供がいるでしょ?
「この植物何なのだろう」と言っていじくったりして、帰らなきゃいけないということが頭から出てしまうんですね。
外で鳥が飛んでいたら、「鳥鳥鳥鳥……」になってしまうし、廊下で友達が走っていたら、「どこ行くのかな?」となってしまうから、その間にやっていることが全部抜けていきます。
1つだけに集中できるというのはアビリティ才能でもあるんです。これをのばしていってほしいですね。
学校では厳しいかもしれませんが、例えば長野翔和学園では「ギフテッド教育」を行っていて、こういったことを強化しています。そのことを徹底的に伸ばしていきます。
お母さんたちにお伝えしたいことは、1つだけ集中できる何かを人生の中で見つけてあげてほしいということです。
小嶋悠紀
大学時代より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、県内の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に講演を行う。
NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。
※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/