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<ミニ特集>あの子の学習の苦手さに対応する合理的配慮(小学校低学年)

文科省・合理的配慮3つの視点に当てはまる
小学校低学年実践

文科省「特別支援教育の在り方に関する特別委員会(第3回)配付資料」には、以下のように載っている。「障害のある児童生徒等に対する教育を小・中学校等で行う場合には、『合理的配慮』として以下のことが考えられる。(ア)教員、支援員等の確保(イ)施設・設備の整備(ウ)個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮」(ア)(イ)(ウ)の視点で、小学一年生に実践したことを述べていく。

群馬県公立小学校教諭 稲葉竜也

 初めて小学一年生を担任した。5月になり、衝撃的な事件が起きた。
 音楽の授業中、A男が急に離席し始めた。教室後方を歩き出し、何だろうと思って見ていると、消しゴムを思いっきり床に叩きつけた。何が起きたのかと茫然とした。そこから彼との格闘の日々が始まった。
 他の授業でも離席し始めた。声をかけても戻らない。奇声も上げるようになった。対応しても変わらない。だんだんエスカレートしていき、教室から飛び出すようになった。床に仰向けに寝ころびジタバタして暴れることもあった。友達にちょっかいを出し、喧嘩になり、叩いてしまうこともあった。教室全体を止めてしまうことが起き始めていた。
 そこで、(ア)教員、支援員等の確保をした。学年にA男の実情を伝えた。学年に1人いる支援員に付いていただくことになった。A男の実態はすぐには変わらなかったが、A男を見てもらえることで、私が教室全体を見ることができた。
 次に(イ)施設・設備の整備を試みた。A男は、周りが気になって学習に集中出来ていなかった。本人も周りがうるさいと言っていた。そこで、パーティションを置くことにした。教室後方窓際に、パーティションを設置し、そこで学習をさせた。少し落ち着いて学習できたが、次第にパーティションが邪魔になってきたようで、結局A男には、合わなかった。
 (ウ)個別の教育支援計画や個別の指導計画に対応した柔軟な教育課程の編成や教材等の配慮もした。A男は学力が高く、授業が分かってしまい飽きてしまうという実態があった。もちろん授業改善が1番だが、まず、学習の活動が速く終わってしまった場合の教材を用意した。保護者とも相談して、家で購入していたワークを持たせてもらうことにした。自分で選んだ教材を学習することで、落ち着いて取り組むことができた。
 万策尽きるまで。その子に応じた合理的配慮を見付ける日々だった。


【特徴】
・小学校1年生。5月始めから離席し始める。
・学力が高い。学習内容が分かってしまい、飽きてしまう。
・退屈になると、離席、奇声を上げる、教室を飛び出してしまう。
・幼稚園時も、集団行動が出来ていなかった。
・幼稚園時は、椅子を投げたり、友達の上履きを全部出したり。
・友達にちょっかいを出し、トラブルになることも多々あった。
・休み時間後は戻ってこない、掃除はやらない。


NG 対応教室から飛び出したときに、走って追いかける

 教室から飛び出してしまったときに走って追いかけたことが何回かあった。A男は、捕まりたくないから全力で走った。廊下で人とぶつかりそうになったこともあり、危なかった。ある時は、追いかけると、振り返りながらこちらの様子を嬉しそうに見ていた。追いかけることで、「教室を飛び出す」ことを強化してしまうと感じた。走って追いかけるのは、良くないことが分かった。

効果のあった対応1 教室から飛び出したときは、歩いて追いかける

 走って追いかけたが、強い刺激を与えてしまうことになった。だから、歩いて追いかけるようにした。歩いた方が、A男も落ち着いた。見失わない程度に追いかけ、見えなくなったら走って間の距離をつめた。

効果のあった対応2 教室を飛び出したときは、支援員に任せる。

 担任が追いかけてしまうと、教室に残った子たちがほったらかしになってしまう。空いているときはいいが、そうでないときは、支援員にお願いした。支援員にも対応1を伝え、歩いて追いかけ、見失わないようにしてもらった。

効果のあった対応3 教室を飛び出しても追いかけない。

 対応1・2を行い、教室から飛び出しても、学校の外に出ないこと、他クラスの邪魔をしないことが分かったら、追いかけるのを止めた。A男は、追いかけられたいという気持ちがあると感じたので、「教室から出る」という行動を減らすために、意図的にスルーをした。


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