小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第53回 【あらためてADHDとASDの教育現場における課題を考える⑦〜ASDの子供たちが起こす課題への対応(2)〜】
大好評の編集長日記「小嶋悠紀の特別支援教育コンパス」は、毎月第1、3木曜日に更新されます。
特別支援教育の第一人者である小嶋編集長の貴重な知見が惜しみなく盛り込まれた、読みやすいのにDEEPな知識まで得られる連載です!
この連載はメンバーシップ限定記事ですが、第1木曜日はどなたでもお読みいただけます。
2 怒りの状態の起こりやすさやパニックの頻発
この課題を抱えているASD(自閉スペクトラム症)の子供たちは本当に多い。しかも「怒り」の影響は本人だけに止まらず、周りの友達や、はては先生たちに向かってしまうことも少なくない。
「チェック」と「対応」をしておくことが必要になる。これをせずに「怒りを追いかける支援」をしている限りは、問題は解決しない。
【チェック1】「怒りのスイッチアセスメントは的確か?」
このような傾向のある子供たちへ、もっとも重要なアセスメントだと思われる。
「その子の『怒りのスイッチは何か?』」ということを必ず複数確定しておくことだ。
大切なことは「複数確定する」という点だろう。
私の経験上「怒りのスイッチ」は単独であることが少なく、複数もっているものだ。それらの「スイッチ」をしっかりと把握しているかが重要だ。
【対応1】怒りのスイッチをなるべく入れない「物的環境・人的環境設定」を行う
基本的に「怒り」のスイッチを入れることで起こることからは、「学び」はない。周りも傷つくし、本人も辛いという認識をもって対処したい。
大切なことは「2つの環境設定」をしておくことだ。
まずは「物的な環境設定」である。「物がある・ない」「物が見える・見えない」など、空間や物質の不足が怒りのスイッチになっている場合、基本的にそれを揃えておく必要がある。
次に「人的な環境設定」だ。「怒り」への対応の場合、こちらの支援が主になるのではないであろうか。
「だいたいの怒りのスイッチは人が押している」からだ。
友達が原因ならば、「そのようになってしまう場面や人の動き」を的確に把握し、遠ざけることをしなければならない。
最もやっかいなのは、「大人が怒りのスイッチを押している」事例だ。「俺が指導してやる」という「おせっかい支援」で台無しにしてしまうことも多いだろう。これは支援会議とその内容の職員間での共通理解が必要になってくる。
【チェック2】「怒ってしまった場合の、介入支援プランは確定しているか?」
事前に怒りのスイッチを把握している場合、かなり怒りの状態を抑えることができるはずだ。
しかし、もちろん人間なので100%を予防できるわけではない。その場合の介入支援プランは確定しているだろうか? そして、それは全職員で共有されておりフローチャートのように対応の流れが決まっているだろうか? この介入支援プランが曖昧である限り、様々な事故やトラブルは避けにくいものになってしまう。
【対応2】介入→クールダウン→コーピングスキルの流れで支援する
怒りへの介入は「ラポールのある大人」が行うことが基本になる。つまりここまでの支援で「ラポールのある大人がどれくらいいるか?」ということが試されるのである。介入できる大人が多数である方が、様々な場面での安定した介入の機会が増えるからだ。
次に「クールダウン」である。一番良いのはクールダウンの場所を確定していることだ。
通常学級でも「先生の机の下に毛布スペース」などを作るだけで、クールダウンスペースになりうる。かつて私は通常学級の1番の後ろのスペースに「1台の椅子」を置いていた。これだけでもクールダウンスペースの確保ができる。
最後に「コーピングスキル(ストレスに対応する技術)」の獲得支援である。「その怒りの状態からどうしたら戻って来れるのか?」ということを具体的なスキルで教える。
「深呼吸」や「ストレッチ」など、直接的に体にアプローチするものもあれば、「動画を見る」「音楽を聞く」「匂いを嗅ぐ」など、間接的にアプローチするコーピングスキルもある。さらには「出来事を書き出す」「出来事をお話しする」などのアプローチも考えられる。
このように「その子に合ったコーピングスキル」を根気よく一緒に探して身につけさせていくのも、怒りへの大切な対処だと思う。
●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表取締役
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。
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