<“キーワードで読み解く”教室での実践記>我々の出番である
合意形成までの道筋や内容項目を発信し、共有しよう。
埼玉県公立中学校 長谷川博之
一 増えつつある実践報告
2014年12月26日、TOSS-SNSのダイアリーで次の文章を発信した。
■ 国際障害者基本条約を受けて成立、 2013年6月に公布された障害者差別解消法。
2016年の施行まであと1年となった。
1年間現場を離れているので詳細はわからないが(大学院に在籍)、各現場とも、真剣に「準備」を進めているだろうか。
本法律では2つの「禁止」を明示している。
今まで同様の不当な差別的取扱いだけが「差別」とされるのではない。
この「合理的配慮」は「リーズナブル・アコモデーション」の和訳だ。
意味範囲が明らかではない、抽象的な単語である。
しかも、内容は学校側の一方的な判断で決められるものではない。
「設置者・学校と本人・保護者が、発達の段階を考慮しつつ、合意形成を図り決定」することとなっている。
そのうえ、決定事項は個別の教育支援計画に明記される。
両者の意見が一致しない場合の規定まである。
「教育支援委員会」(仮称)の助言等により解決を図るとされているのだ。
そもそも個別の教育支援計画すら作成していない学校がまだ山ほどあるのではないか。そういう学校は、すぐにでも「準備」を開始しなければ、2016年の施行後は「裁判沙汰」にすらなり得る。
そこまでいかずとも、保護者からのクレームは続出するだろう。
TOSS教師のいる学校は大丈夫だ。
それぞれの所属校に、特別支援教育のシステムを構築するために学び続けているのだから。
私もまた、中学高校における特別支援教育のシステムと実例を広め、助言する仕事を続ける。■
TOSS内で合理的配慮に言及した初めての文章だと思う。
平成28年度が始まり、合理的配慮をテーマにしたダイアリーが増えつつある。
TOSS会員がそれぞれの現場で奮闘していることが如実にわかる。
合意形成までの道筋や内容項目の報告が始まると、さらに研究的価値が高まると考える。
二 現場で起こり得る事例と対応
平成28年度私は異動した。4月第1回の校内研修において合理的配慮と合意形成についての話をした。
文科省のHPには合理的配慮の例として次の3点が挙げられている。
我々現場の教員がすぐに着手できるのは(ウ)である。
そこで、まず取りかかりとして、教材選択について講座形式で話した。学力保証を支える優れた教材を採択し、それらに助けられながら授業することが重要だからである。
次いで、個別の教育支援計画及び個別の指導計画に合理的配慮の具体策を盛り込む話をした。
私の作成したシンプルな個別の指導計画を数枚提示し、保護者と本人を交えて年間ゴール、中期目標、短期目標を設定した事例を説明した。
どちらも、そのような見方・考え方は初めてだと好評だった。
さて、現任校ではまだトラブルが生じていないが、仲間の所では危うい1件があった。
サークルメンバーの報告である。
■新入生の保護者から連絡があった。
「わが子はLDで、○○大学で見てもらっています。文字を読むことに難があるのでテストで問題文にルビをふってもらいたいです。また、漢字で答えるべき問題をひらがなで書いても正解にしてほしいのですが」
担任と学年主任は「なんて勝手なことを言っているんだ」と即却下したという。
今日の教育相談・特別支援部会で報告があり自分と支援学級担当が「それは……」と反応。
合理的配慮については昨年も研修で話があったものの、やはり、実際に要望があったり目の前で実際にことが起きたりすると先生方も即対応は難しい。
管理職にも判断を仰ぎ、通っている大学にも連絡をとって(保護者確認のうえ)今後の対応を検討することになった。
幸いにも長谷川先生をはじめ、TOSSで学んでいたため、「合理的配慮」の具体例がイメージできているが現場にそのイメージはない。
すぐに、合理的配慮について具体的な事例を挙げての研修を提案し決定。日程も決めた。
もっと、学校全体でアンテナを高くしていかないといけない。■
要支援のケースを「わがまま」「自分勝手」と切って捨てればその刃は即座に自身に返ってくる。そんな時代がすでにやってきている。
特別支援教育の思想と方法論が今まで以上に入りやすい土壌ができつつある。我々の出番、ということだ。
※この記事は2016年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 第4号』に掲載されたものの再掲です。一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。https://www.tiotoss.jp/
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