五色百人一首で変容した子供の事実
「誰かに分かって欲しかった」子供の言動は、教師へのメッセージの裏返し。
富山県公立小学校教諭 加藤綾乃
掃除中、ある子供の声が聞こえてきました。
「お前ら、なんで掃除なんかしてるの? バカじゃん!」
教室の入り口を塞ぎ、座り込んでいるのは小学校2年生のA君でした。
授業中に、教室の机の上を歩き回ったり、教室からの飛び出しがあったりしたと、当時、話題になっていました。
翌年、A君を担任することになりました。担任発表よりも前に、A君と繋がりを作りたいと思いました。3年生の教室近くで待っていると、A君がやってきました。
私は、「A君、おはよう!」と声をかけました。するとA君は、「先生、なんで俺の名前知ってるの?」これが、私とA君との初めての会話でした。
授業が始まりました。
教科書は出さないため、私が出しました。
忘れ物も多かったため、私が貸しました。
それでも、A君には「授業はやらなくてよいもの」という間違った認識が強く根付いてしまっていたように感じました。
教室からの飛び出しはなくなったものの、授業中でもお構いなしに、友達に話しかけていました。
授業中、バケツを被って授業に参加しないこともありました。
その一方で、A君の言動からは、「誰かに分かって欲しい」という思いが伝わってくるような気もしていました。
「100点なんか取れない!」と言ってテストをビリビリに破かれたことがありました。
この言動からは、「僕だって、100点を取りたいんだ!」という強い思いが伝わってきました。
五色百人一首(教育技術研究所:https://www.tiotoss.jp/)を行うと、負けを認めることができませんでした。
札を床に投げ捨てたり、大暴れして泣いたりすることが続きました。
しかし、それでもA君が五色百人一首をやめることはありませんでした。
そんなA君の姿から、「僕だって、できるようになりたいんだ!」という強い思いが伝わってきました。
A君に足りなかったことは、学習したことや、A君なりに頑張ったことに対する教師の評価だったのではないかと考えました。
とにかく、細かく細かく褒めていくことを意識して過ごすようにしました。
漢字の問題には、漢字ひとつ書くごとに丸を付けていきました。
分からない問題は、赤鉛筆でうすく答えを書いてあげ、なぞらせました。
そうすれば、A君も丸がもらえるようになります。
少しずつではありましたが、成功した体験を、確実に積み重ねていきました。
この手立ては、サポートに入ってくださる支援の先生にもお願いしました。管理職の先生方にもお願いをしました。周りの先生方の力を借りながら、着々と成功体験を積み上げていったA君は、3学期になると、すっかり学習に集中できるようになりました。
A君の変化に、周りの子供たちの見る目も変わっていきました。A君は、他の友達を巻き込みながら、ドッジボールパーティーを企画・運営するほどにまで成長しました。
子供たちの言動の裏には、必ず教師へ伝えたい何かがあるんだということを、A君の成長を通して学びました。
© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan
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