<“あの子も変わった”教室での実践記~特別支援学級~>シンプルでその子の好きなものを活かした教材の工夫
大泣きしていたAさんが毎日1枚取り組むようになった「名文筆記トレーニングシート」
石川県公立小学校 毛利 康子
一 毎回大泣き 書く活動
Aさんは特別支援学級の二年生。
4月、前担任が使っていたという市販の平仮名プリントをすると大泣きした。
書くという作業に苦手意識があるらしく、自分の名前は書けるが、その他は1週間に1回取り組めばいい方だった。
二 自分からなぞろうとする
Aさんにとって大きな転機が訪れた。
「名文筆記トレーニングシート」との出会いである。
小嶋悠紀氏が教室の子供たちのために自作された教材で、身近な名文をトレーシングペーパーでなぞる。特徴を次にあげる。
真似して自分でもつくり、平仮名の読み書きができるCさんに試してみた。
小さい文字が書けないのでB4版に変更。Cさんは直接なぞる形で、全文平仮名のシートに喜んで取り組んだ。
ある日のこと。Cさんが交流の授業に出かけた後、AさんがCさんの机の上からトレーニングシートをつかんで、自分の筆箱から赤鉛筆を出そうとした。
「Aさんもやりたいの?」
と聞くと、うなずいた。
「用意してありますよ」
と、Aさんにシートを渡すと、黙々となぞりだした。教師が特に説明しなくても、休み時間にも関わらず、赤鉛筆であっという間になぞった。
「すごい! 花丸いっぱい!」
と、村野聡氏から教わった花丸をつけると、Aさんは、
「かわいい、これ!」
とピョンピョン跳ねた。
昔話が好きなAさんにとって、自分が知っている昔話のフレーズをなぞるという学習がヒットした。
三 なぞることを続けることで
それからというもの、Aさんは大泣きすることなく、毎日名文筆記トレーニングシートをなぞった。
シンプルで、その子の好きなものを活かした教材の威力を見た。
1年後、Aさんは「つ」など簡単な文字は書けるようになった。
優れた教材が、子供を変えたのである。
※この記事は2016年6月1日発行の『TOSS特別支援教育 第3号』に掲載されたものの再掲です。一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
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