小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第26回 【「過敏性と教育」⑥ 〜過敏性に鈍感な大人たち〜】
2023年4月より「ささエる」編集長・小嶋悠紀の週1連載が始まりました!
メンバーシップにご登録された方は毎週金曜日に、それ以外の方は月1回第1金曜日の分だけお読みいただけます!
今回は第1金曜日ですので、どなたでもお読みいただけます!
熊谷氏の「記憶」と「予知」による、感覚過敏のサイクル図は、今見てもとても分かりやすい。
特に感覚過敏を有する事が多いASD(自閉スペクトラム症)の子供たちは前回も紹介した通り、「記憶→予知」の部分に大きな課題を抱えている事が多い。
「予知」ができることで様々な学びや体験から遠ざかったり、課題となる行動が表出たりしてしまう。
これらの「記憶」と「予知」に、小嶋が実際にどのように対応したかをご紹介したい。
事例1)ぬぐるみを一列に並び替えてからでないと学習に向かえなかったA子さん
この事例の場合「記憶化」されたことだけなので、基本的にこだわり行動を「受容する」事が対応の方針であった。私は「並び替える時やタイミングを予想する」ことを最優先とした。そのことで、
「並び替えが必要そうなタイミングの前の活動を早めに切り上げてその時間を確保すること」
ができるからだ。この支援は、A子さんにとっては最も大切なものとなった。
事例2:全校集会に入ることを拒否するようになったB子さん
B子さんの支援方針は次のようなものだった。
「予知した未来よりも現実の方が楽だったという経験を積み重ね記憶を書き換える」
B子さんが辛い経験を「記憶化」したのは低学年の時であった。「過敏性」が最も強く出ていた時の「記憶」なのである。そこで、全校集会を「刺激の弱い場所」から体験させることにした。
「ほら、思ったより音は大きく聞こえなかったね」
というように声をかけて振り返りを行なった。徐々に記憶が「音はそんなに大したことない」という方向へ上書きされていき「予知」によって体育館に抵抗を示すことがなくなっていった。その結果、他の授業にも参加できるようになった。
事例3:友達を笑顔で叩くようになってしまったCくん
C君の場合、「返ってくる刺激が友達が泣く」という点が「予知」されてしまうことが課題となる行動の表出要因であった。
そこで私がとった支援方針は、
「叩くという行動が出た直後の刺激の調整」と「代替刺激の入力」
であった。
Cくんが「叩くという行動」をとった時には、「他の子の反応が返ってくる前に、静かなところまで連れていく」という支援を行なった。
「叩いても望んだ刺激が返ってこない」
ということを、まずは体感させるためだった。これによって「記憶→予知」の経路を弱めていった。
次に、
「できるだけ正しい行動が出るカードゲームで、楽しい刺激と時間を体感させる」
という「代替刺激の入力」を行った。
「弱めた行動」に対しては、「代わりとなる行動様式」を入力しなければ、なくなることはない。
このことで「正しい行動には強い刺激が返ってくる」という「記憶→予知」が新しく作られ、課題となる行動は減っていった。
このように、正しい理解と対応によって様々な行動が変えていくこともできる。
●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。
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© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan