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<みんなが楽しく取り組める 脳トレ教材活用術>毎日でも楽しい! 早探し対決や創作問題で、一緒にどこどこ♪

他の見つけ本には見向きもしない子も夢中に! やがて、自作の問題を出せるようになった!


静岡県公立小学校教諭 広畑 宏樹

一 この見つけ本だけ夢中に!

「先生、やろう? どこどこ!」

自閉スペクトラム症のAさん(情緒学級一年生)が、毎日毎日せがんできた。『アタマげんきどこどこ』(騒人社)という見つけ本(視覚探索絵本)にはまっていた。他の見つけ本には見向きもしないのに、この本は夢中になった。
 

『アタマげんきどこどこ 1巻学校編』より転載。


二 活動から入り、楽しむ! 「『おはよう』の女の子、どこ?」

「みつけてどこ?」問題に描かれた女の子を指し、尋ねるだけで、すぐに探し始めた。取り組んだのは、他の見つけ本よりも場面絵がシンプルで、負荷が適しているためだろう。セリフがあり、探す人物が印象づけられるのもよいのだ。1巻は探す人物と場面絵が同じ姿である。10秒も経たずに見つけられた。

「ここ!」とAさんが叫んだ。

「いたねえ。もう見つけたなんてすごい」とほめた。見つけた喜びに、ほめられた喜びも加わり、Aさんは大喜びだった。もっとやりたいと取り組んだ。

「ここ!」「いた!」と、Aさんが見つけるたびに、私は、「いたね!」「すごい」「早いなあ」「よく見つけたねえ」などとほめていった。Aさんは、楽しそうに、にこにこ顔で取り組み続けた。
 

三 毎日でも楽しい!

「みっけ!」「Aさんの勝ち」

早探し対決を連日楽しんだ。

「早い!」「先生より早い」「もう見つけた!」「覚えていたの? すごいなあ」と、毎日ほめた。

Aさんは、毎日、1巻の1番から始めた。私はAさんに合わせた。日に日に見つけるのが早くなり、次々進むようになった。新場面に入るのも楽しかった。
 

四 創作問題に取り組んだ

4日目、「給食」のページでのことだった。掲載問題が終わった後、「あ、メロンがある! どーこだ?」と出題した。すると、Aさんは探し始めた。すぐに発見。「Aさんすごい! もう見つけた!」とほめ、「ケーキ。どーこだ?」とすかさず2問目を出題した。「あった!」と叫び、喜んだ。

しかし、その後は創作問題を出してもおかまいなし。ふだん通りに掲載問題をやりたいようだった。とはいえ、創作問題に取り組むことができた!
 

五 Aさんが問題を自作した!

5日目、「ワイワイがやがや」のページで、掲載問題を終え、私が創作問題を出した後のことだった。Aさんが、「Aが言う! カメさん!」と言ったのだった。探すと、確かにカメがいた。私が「いたよ!」と指さすと、「すごい! 先生すごい!」とテンション高く叫び、喜んでいた。

「問題を出す」というのは相手意識のあらわれだ。自閉系の子にとって、大きな成長だった。

創作問題で、「かにいた!」と喜ぶAさん。

 

六 人と関わることを楽しむ♪

7日目、この日も1巻。Aさんは、すっかり位置を覚えていた。問題を言った瞬間に指が出る。私もさっと指を置く。それに対して、Aさんは「ひきわけ~(笑)」と大笑い。ほとんどの問題で、「ひきわけ〜」となった。人と関わることを楽しんでいた。
 

七 Aさんがセリフを読んだ!

7日目は新たな変化があった。Aさんが問題のセリフを読んだ。私が読むように、抑揚があった。怒っているように読んだり、優しく声をかけるように読んだりと、感情を表現していた。私はびっくりした。これまでの音読は、絵本でも、教科書の会話文でも、抑揚がなかったからだ。一言を真似させてもである。

そんなAさんが、『アタマげんきどこどこ』のセリフは表現して読んだ。特に、「パンくれよ」「すごい!」を気に入り、連日言っていた。そのため、音読教材としても使うようにした。
 

八 自身の体験を想起した

7日目は、他にも成長があった。脳機能の1つであるエピソードバッファの働きもみられた。「お誕生日会」のページで、創作問題に取り組み、ピザを見つけたときだった。

突然、「○○ちゃんと、ママと、じいじと、ばあばと、△△にいに、Aちゃん」と、ずらずら名前を挙げた。

私はピンときた。「休日に親戚とピザを作って食べた」と、保護者から聞いたのを思い出した。「そうだねえ。Aさん、ピザを作って食べたんだよね」と私が言うと、嬉しそうに頷いた。そして、思い出を話し出した! 自身の思い出を、彼女が自ら話し出したのはこの日が初めてだった。Aさんの成長を感じた。
 

九 その後の取り組みの成果

6月に導入してから、私が異動する年度末まで、Aさんは『アタマげんきどこどこ』がずっと大好きだった。9月には行事編に、1月には世界遺産編にも取り組むようになった。

探す人物と場面絵の姿とが異なる問題になっても、見つけられるようになった。成長である。

また、ワーキングメモリの向上を感じられた。視写を数分の1の時間で書けるようになった。二十玉そろばんがなくても、繰り上がりや繰り下がりのある計算ができるようになった。

脳が鍛えられたためか、多動の症状が減り、集中力が増した。
 

☆導入のポイント

最重要ポイントは、次だ。

子供が楽しさを感じるか。
 
これに尽きる。そのために心掛けたいことが2つある。

1つは、達成感を抱かせることである。場合によっては、「こっちのページにあるよ」「近くに○○がある」とヒントを出す。

「これを探せばいいのだ」と気づかせる対応も有効だ。「ぼうし7つ」を探す問題で、「給食着のぼうしは当てはまらない」と誤解した子がいた。「これもぼうしだ! 4つ目」と私が言うと、「5、6、7! 全部あった!」と言って喜んでいた。

もう1つは、ほめて、ほめて、ほめまくることである。嬉しい、楽しいという気持ちで活動すると、頭も心も元気になる!

別の年度、知的学級にて。学年関係なく仲良く夢中に♪

 


※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

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