見出し画像

<荒れた中学校を立て直した! 人生を変える指導法>自己決定権は尊重するが主導権は渡さない③

(②つづき)

教師は最初から説教に入りがちです。それでは効果が薄いと思います。

小学校時代から当番の仕事を全くやってこなかった生徒もたくさんいました。
給食当番とか掃除当番とか、時間になるとどこかに行ってしまう。体育館や校庭で遊んでしまうのです。そのうち帰ってきて、「いただきます」も言わずに自分の分を食べ始める。そんな中学生が、荒れた学校には存在するわけです。小学校から「いただきます」で食べてきていませんから。小学校一年生だって普通は待ちますよね。

でも、彼らは待てない。待たない。だからこんなことも、指導事項になります。当番をさぼる生徒に、私はこう言います。「返却はお前がやれ。持ってきていないから」。ここまでは普通ですよね。これに、次の言葉がつくといいんですよ。

「俺もやる」。それで、2人でやる。そうすると、彼らの悪友もそれを見ているから、手伝い始める。これが、「俺と一緒にやろうぜ!」だとダメです。それは子供に阿っている感じがする。「お前がやれ」のほうがいい。そう言いながらも、お前を1人にしない、ということが伝わるほうがいい。私の経験則です。

崩壊した部活を担当したことも何度もあります。例えば男子テニス部、30人くらいの部活でしたが、前年度は顧問がほとんど部活に出ておらず、練習試合は1年間で1回だけというケースがありました。

荒れていると、部活の練習をするかどうかの判断は生徒がします。雨が降ったら勝手に帰る。疲れたら帰る。嫌なことがあったら帰る。そんな感じです。

そのような状態で4月が始まるわけです。まだ春休み中、職員会議をやっている最中に、テニスコートから部長の声が聞こえる。「集合! 集合‼」20回くらい言っています。周りが部長の言うことを聞いていないのです。職員会議の終了を待ちに待って、終わった瞬間に職員室の放送器具のところに行って、ピンポンパンポーンとやりました。

「顧問の長谷川です。今からテニスコートに向かいます。部長の指示に従わない者、退部届を書くか、部長の指示に従うか、どちらかを決めて待っていなさい」

実際にコートに行って、「退部か指示に従うか、どちらだ」と訊きます。
これが「自己決定権を尊重する」ということです。選択肢を出して決めさせるわけです。自己決定させる。「はい。やります」と言わせます。

でも、主導権は渡していません。私が握っているでしょう。これが「自己決定権は尊重するが、主導権は渡さない」という、指導の原則です。こちらで選択肢を示し、相手に選ばせる。選んだからこそ、「自分でやると約束したよね」と指導できる。

それをせずに説教だけで生徒を変えようとするから、指導が入らないのです。

朝練をさぼっては話をし、練習をさぼっては話をし、と私は何十回と繰り返してきました。相手が変容するまで、教え続けるのです。キーワードは「根気と忍耐」です。
以上のようにひたすら教え続けていると、間違いなく生徒は変わっていきます。

チャイムが鳴っても騒々しかった学級が、2週間目には漢字スキルにシーンと取り組むようになります。ある年には、授業の指名なし発表で立つ生徒が1人もいなかったのですが、女子は1週間に1人ずつ、立てるようになりました。男子は全く立たず、4月の授業参観も発言せず、5月になっても6月になっても1人も発言しませんでした。しかし、6月の半ばにやっと、男子6名が一気に立つ瞬間が訪れた。

一気に立ったのです。女子から拍手が沸きました。腹の底にずしんときました。

こうなるまで続けられますか、ということです。「指名なし発表どうぞ」と何十回言っても1人も立たない状態です。指名なし朗読、指名なし発表、と続けると指名なし討論ができると言いますが、これは落とし穴があります。そこの前に必要なことがある。氷のような生徒の心を融かすことです。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中学校教師が陥る間違った対応の1つが、主導権まで生徒に委ねてしまうことである。

たとえば、部活動でやる気が見られない生徒に対し、「帰れ!」と怒鳴ってその場を去る。生徒は喜んで帰る。教師は後でその事実を知り唖然とする。生徒がこちらの「意図」を汲み取らないことに怒りも覚える。
保護者からはクレームが届く。「先生が帰れと言ったから帰ってきたと言っているが、どういうことか説明してくれ」と。

指導上、主導権はあくまで教師が握る。生徒には選択肢を示し、自己決定させるのである。

ちなみにこの誤った部活指導には、語用論的なミスもある。それはまた別途扱うことにする。


長谷川 博之
NPO法人埼玉教育技術研究所代表理事。TOSS埼玉志士舞代表。日本小児科連絡協議会「発達障害への対応委員会」委員。全国各地で開催されるセミナーや学会、学校や保育園の研修に招かれ、講演や授業を行っている。また自身のNPOでも年間20回ほどの学習会を主催している。


※この記事は2016年2月1日発行の『TOSS特別支援教育 第2号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/

© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan