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小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第29回 【「過敏性と教育」9 〜過敏性に鈍感な大人たち〜】

2023年4月より「ささエる」編集長・小嶋悠紀の連載が始まりました!
「ささエる」本格オープンの11月からは毎月第1・3木曜日の更新となりました。メンバーシップ限定記事ですが、第1木曜日はどなたでもお読みいただけます。
今回は第1木曜日ですので、どなたでもお読みいただけます!

 私は今まで3000人近くの発達障害の子供たちと直接的・間接的に関わり、支援を展開してきた。その中で、ASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子供たちには、共通したある特徴があることに気づいた。
 それは、
「1日〜1週間の生活の記憶や思い出などがとびとびになっている」
ということだ。
 例えば
「朝ごはんに何を食べたか全く覚えていない」
「土日に遊びに行った場所は覚えているが、誰と行ったのかなどは覚えていない」
「学校で1日何をしたかなどを家庭で話をすると、ほぼ覚えていないような話ぶりになる」
などである。
 この事は、ある特定の事例に見られたということではない。かなり多くの事例で、同じ状況を目撃している。その子の「記憶力」の問題なのかと思った時もあったが、記憶に関してそこまでの課題が確認されることはなかった。
 実は、これらのことも「過敏性」が原因で起こっている可能性が高いことに気がついた。
 例えば、「休日の出来事」である。テーマパークに遊びに行ったとしよう。
 本人の好きな乗り物に乗る。ジェットコースターやメリーゴーラウンド。そうやっていくつか乗り物に乗った時、一緒に行った家族の顔を見る。みんな楽しそうな顔をしている。食べたものはお子様ランチ。最高のおいしさだった。夕方になり、家族みんなで出口を出る。
 「楽しいテーマパークで過ごした一日という記憶」が出来上がる。
つまり、これらの思い出の「部分」が全て結合するからこそ「テーマパークで過ごしたという全体の記憶」になるのである。
 しかし、ASD傾向のある子供たちは「過敏性」を持ち合わせている。
 「ジェットコースターが大好きだ!」という強烈な過敏性の記憶がクローズアップされる。
 今までの連載で語ってきたように、それ以外の刺激がジェットコースターより小さかった場合、刺激にならずに全て記憶の中から弾かれてしまうのだ。誰と行ったかということも分からなくなるのが理解できる。
 つまり過敏性のある発達障害の子供にとっては、
「ジェットコースターに乗ったことが、テーマパークでの全てであり、それがテーマパークの記憶」
と認識されているのである。
 これは分かりやすい例だが、特別な場合のみの症状ではなく、
「日々の記憶でも同じようなことが繰り返し起きている」
と考えるのが自然ではないだろうか。
 「朝食の記憶も、他の刺激が強ければ、記憶に入る前に弾かれしまう」
 「登校の時に何があったのかなども、刺激として低い場合、記憶として残らない」
のである。
 このような現象がよく起きるのが「喧嘩などのトラブル場面」である。
「あいつにむかつくことを言われた!」という怒りの刺激のみが入力されてしまうので、その前後の出来事などの記憶が時系列に沿って上手に思い出されないことが本当に多い。自分が殴ったことさえ忘れている子供もいる。
 このように、過敏性があると記憶がとびとびになるということを前提に支援にあたれれば、全く違ったアプローチになるということはご理解いただけるだろう。


●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。


※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/
© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan

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