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聞かない! 動かない! 学級の腫れ物児童への対応

今までの学びが全く通用しない。そんな時に出会った言葉と働きかけを紹介します。

千葉県公立小学校教諭 山田賢



私が担任した中で、過去最も大変だったのがA君です。
授業中に教科書を出さないことは当然ながら、居眠り、周りへの迷惑行為、関係のない話……など、全く授業に参加してくれませんでした。
趣意を説明しても、一時に一事で指示を出しても、お隣と確認させてもダメでした。
今まで学んできたことが全く通用しませんでした。
休み時間には、よく殴り合いの喧嘩が起きました。
もちろん、掃除はしません。雑巾がけなんて皆無です。
また、落ちたものは自分のものでも拾わない、あいさつはどんな時でも大声を出すなど、様々なこだわりの中で生活していました。

4月当初、この子を筆頭に学級崩壊する気配を感じました。管理職にお願いし、授業を観にきてもらうよう頭を下げるくらいでした。
学級がうまくいかずに、段々と朝起きるのがキツくなってくるのを感じました。
学校を休みたくて仕方がありませんでした。

そんな時に、セミナーで長谷川博之氏が発した言葉に衝撃を受けました。
私は100万回裏切られようとも、彼らのことを愛しています(文責:山田)」
この言葉を聞いた瞬間、開いていた穴が塞がっていく感覚になりました。
私に足りなかったのは、技術ではなく、「彼を助けたい、立派に育ってほしい」と心から思う愛だったのです。

そこから、A君の興味関心事に心を向けるよう、心がけていきました。
A君の好きなことは、ゲームです。
そのゲームを買い、隙間時間を使ってやり込みました。
そして、迷っているステージをA君に相談をしてみると、彼はマシンガンのように私に話をしてくれました。
授業のことでは全く心を開いてくれなかったA君がです。
そこから少しずつ、A君との関係が近くなっていくのを感じました。
それだけではありません。
私の指示が通るようになり、問題行動も少しずつ減っていったのです。

指示が入るようになってきてから、A君に少しずつ負荷をかけていくようにしました。
例えば、国語なら「漢字スキル3文字まではできるか? その後は、静かにできることしていていいぞ」
算数なら、「最後の計算スキルは一緒にやろう。今はこれだけでも合格だ。」
のようにです。

これが当たり前になってきたら、自分でやっていることを認め、1日数ミリの成長を私が言語化し、A君の心のコップに一滴一滴水を注いでいく行いを繰り返していきました。
授業は、私が先生。ゲームは、あなたが先生
これも長谷川氏から学んだ言葉です。この言葉を繰り返しA君に伝えました。
A君は、小学1年生から、教師からも周りの仲間からも腫れ物のように扱われてきました。
きっと彼が求めていたのは、共感してくれる仲間であり、大人だったのです。

変容していくA君を一番身近で支えていたのは、学級の仲間たちでした。
私は4月から「A君は必ず変わるから。みんなと同じように勉強ができる日が来るから」と言ってきました。

その日が来るまで8か月以上かかりましたが、学級の子供たちもA君を賞賛してくれました。
管理職も周りの教員も「奇跡だ。A君が授業を受けている」と彼の変容に驚いていました。

最も驚いていたのは、A君の母親でした。
「家でも全く違います。妹に暴力を振るっていたのが嘘のようです」と目に涙を浮かべながら、面談で私に話してくれました。

教師で必要なのは授業力、これは否めません。
しかし、授業力を上げるのには時間がかかるものです。
それよりも、対人間として関わりを深めていくことで、今の自分の授業力では賄えないものを補えたと思うことができたA君との出会いでした。

文章にするとすぐ変容したように感じるA君ですが、現実はそうではありません。
毎日薄皮を剥いでいくような苦しい日々でした。
そんな苦しさの中に根を張り、その積み重ねの上に花を咲かせるような日々を送れるなら、そして、子供の生きる力を育むために、これからも教師修業をしていきます。


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