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<荒れた中学を立て直した! 人生を変える指導法>ABC分析で問題行動のパターンを見抜こう②

(①つづき)

3.問題行動を分析する

どうですか? 先生方だからテンポよく進めますね。

先生、まず何番?(5番です。)
まず、5番ですね。もう一つは?(8番です。)
8番ですよね。5と8ですね。これらの行動で、この子は大変だと評されているわけです。

確かに、あなたのクラスにいたら大変ですよね。だって、授業中、指示に従わないわけですよ。反抗してくる。大変ですよね。
このような言動をもって、A君は「好きなことしかやらない」「意欲のない子だ」と言われているんです。

放課後です。校内研修で全員の先生に集まってもらって、「先生方はA君を『自分の好きなことしかやらないやる気のない子だ』って言いましたね。本当にそうなのかを検討しましょう。まず、A君はやる気がないんですか?」と聞きました。

そうすると先生方は驚いた顔をします。そして考え始めます。そのうち、「いや、違う」と言い始める人が出てくるのです。

先生、A君はやる気がありませんか?
(あります。)
なぜ、やる気があると言えるのですか?
(1番に対する2番の行動にやる気が感じられるからです。)
自分から発言していますよね。挙手していますよね。
意欲がないと言えますか。
(言えません。)

これで、先生方は黙ります。一方的にA君を責めることを止めます。

次に、こう言います。
A君は好きなことしかやらない。先生方はそうおっしゃいましたよね。
確かにA君は不適切な行動をします。さきほど5番、8番が問題だと言いましたよね。

その前を見てください。4番と7番です。

A君が反抗的な態度をとったのは、担任の先生があることをやった時です。
それはどんなことでしょう。お隣同士、ご近所さんと話し合ってください。

はい、おそらくもう答えが出てると思いますので聞いてみます。

(指名された時。)
(最初にあてられた時。)

いいですね。もう一歩突っ込みましょう。教師が児童にさせていることに注目してください。

先生、お願いします。教師は4番と7番で何をさせた?
(音読です。)

その通りです。音読をさせることです。教師が音読の指示を出した時にA君は反抗しているのです。そのことがこの資料で分かります。
先生方は言われてみればそうだ、と頷きながら聞いていました。今の皆さんのように、です。

次に何をするか。一年生の時にA君を担任していた先生に「国語の時間、A君の音読は上手でしたか?」と聞きました。
「いや、上手じゃありませんでした」と返ってきました。
「ありがとうございます。A君の二年生の時のことをよく知っている先生はいますか」と聞きます。
「A君は人前で本を読んだりするの嫌がりませんでしたか?」
「嫌がりました」と返ってきました。
「ありがとうございます。昨年担任した方? 国語の時間、A君は音読をスラスラできましたか?」
「できません」という。
ですよね。だから、A君は不適切な言動をしてしまうのです。

A君は、音読が苦手です。苦手でできないことを、支援もなく、一方的にさせられて、結果としてみんなの前で恥をかいてきました。入学後ずっとです。結果としてA君は、反抗を始めているのです。

さて、A君はどんな障害をもっていると推定できますか?
(文を読めない。)

ディスレクシア(難読症)です。この子は話せる。でも、音読に困難がある。内容読解ができているかどうかは不明でしたけども、音読はまず、できない。しかもそれが、一年二年三年四年、と入学以来4年間続いている。

このように、特性を推定しなくては指導が始まらないのです。

ちなみにアメリカでは、LDは教師が診断をしてよいことになっています。なぜかというと薬がないからです。診断は薬を出すためにするものです。
ADHDの診断は医者しかできません。薬があるからです。
自閉スペクトラム症は薬がありません。自閉スペクトラム症の二次的な障害に対して、パニックであるとか、あるいは抑うつであるとか、そういうことに対しては薬はありますけれども、自閉スペクトラム症の薬はありません。だから、本当は、教師が見抜くの
です。

医者はLDですと診断しても何もできないのです。
 
LDの子供を支援することは教師しかできないのです。
 
だから私たちにはまず、適切なアセスメントに支えられた特性の推定が必要なのです。
 
LDだからダメだよ、ではないのです。LDだからこういう工夫をしてみようと未来志向で考えるのですね。
 
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同じものを得るとしても、問題行動をすれば注意叱責をされ不快である。望ましい行動でそれを得れば褒められる。無論、後者がよい。
 


問題行動の前後を文字おこししてみることで、パターンが明らかになる。
行動の先行条件(行動を引き起こしている事柄)が分かれば、打つ手が見えてくる。先行条件を変えれば、行動は変わる可能性が高い。

逆に、先行条件に手を加えずに、行動だけを変えようと思っても、うまくいかないことが多い。多くの現場で「指導の成果が見られない」と苦悩する教師が多いのは、子供の行動だけを変えようとするからである。

しかも、道徳的なアプローチ(「人間として~」等の心への訴えかけや説教)に偏った方法で、それをする。それで変容を促せればよいが、現実はそう甘くない。

指導する側にも変えるべき点があるのである。
 
A君の事例は「音読」であった。

読者にはぜひ、ご自身の勤務校の事例を想起してほしい。
このパターンで子供をスポイルしてしまっている例が少なからず存在するのではないか。
教師側の仕事の甘さを棚に上げて、子供を一方的に断罪してしまっている例が、あるのではないか。
 
一学期を終えて指導を振り返った時、私自身にもまた反省すべき点がある。
教師が変わって、子供が変わる。
勉強あるのみである。
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長谷川 博之
NPO法人埼玉教育技術研究所代表理事。TOSS埼玉志士舞代表。日本小児科連絡協議会「発達障害への対応委員会」委員。全国各地で開催されるセミナーや学会、学校や保育園の研修に招かれ、講演や授業を行っている。また自身のNPOでも年間20回ほどの学習会を主催している。


※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

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