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<こだわりの強いあの子…どう対応する?>頑固なダウン症の子には、ユーモアのある声掛け、対応が効果的

セロトニン5を日常的に行い、自己肯定感を高めていく。


香川県特別支援学校教諭 TOSS香川 大恵 信昭

特別支援学校で勤務している。

ダウン症のAさん。以前、中学部で担任した。春休み、小学部の先生方から引き継ぎを受ける。とにかく頑固で、指導者の指示に従おうとしないとのこと。転勤したばかりの自分が担任することを、小学部の先生方も不安そうに見ている。4月がスタートし、実際に指導を開始する。

「Aさん、教室移動をしよう」と言っても、動かない。自分の好きな塗り絵をしたままで、こちらの言っていることを聞こうともしない。

言葉だけでは無理かなと思う。椅子の後ろから手を回し、腰のあたりをつかんでもちあげようとする。「嫌だ、嫌だ」と激しく抵抗し、泣き叫ぶ。

当時は、ダウン症の子への指導経験がほとんどない。途方に暮れかける。

TOSSの書籍をはじめ、特別支援関連の文献にあたる。岡山の平山諭先生の特別支援学習会でも事例発表して具体的なアドバイスをいただく。そうした中で少しずつ、効果のある対応ができるようになった。

一番のポイントは、正面から力技で、させようとするのでなく、ゆったりと構え、ユーモアのある対応をしていくことである。

例えばAさんが、鼻紙を床にそのまま捨てようとしている。ここで、「Aさんゴミ箱に捨てなさい」と言っても逆効果である。「アイドルの鼻紙はゴミ箱です」と笑顔で言うと、「アイドル、アイドル♪」と繰り返しながら、ゴミ箱に捨てた。

教室移動の際にも、「そろそろお姫様は動く時間やなあ」と声を掛けると、スイッチが入ったように教材をもって移動する。そこをほめることで、そのままスムーズに動けるようになった。

平山先生から「みつめる ほほえむ はなしかける ふれる ほめる」のセロトニン5※の理論を学んだ頃とも重なる。実践を通じて、理論の正しさを腹の底から実感した。
※平山諭氏が提唱する、セロトニン分泌を促す5つの対応。


【特徴】
・特別支援学校中学部女子
・ダウン症 知的障害
・頑固で、指示に従おうとしない。
・無理に動かそうとすると、動きが固まってしまい、泣いてしまうこともある。
・身の回りの整理が苦手。鼻紙なども床に捨ててしまう。
・塗り絵や音楽が好きで、休み時間にもよく行っている。


NG対応 正面から動かそうとする

強い口調で、「早く移動しなさい」「もう休み時間は終わりです」と言う。余計に頑固になり、ますます動かなくなる。知的障害が中重度のダウン症生徒の場合、多くが自閉的な傾向をあわせもつことも分かってきている。身体を持って無理に動かそうとすると激しく抵抗するのも、知覚過敏の特性である。

効果のあった対応1 ユーモアのある声掛けや対応をする

ダウン症の子供も、動きたい気持ちはある。正面から言われると、反発して動きにくくなる。自閉スペクトラム症の生徒が、場を支配しようとし、教師の指導に反発するのに通ずるとも言える。ユーモアのある声掛けや対応で動きやすくなる。

効果のあった対応2 セロトニン5を行う

「みつめる ほほえむ はなしかける ふれる ほめる」のセロトニン5は、どれも有効である。頑なだった子が動きはじめた場面などは、大いにほめる。機嫌の良い時、安定している時から、日常的に行っていく。

効果のあった対応3 得意なものを認め、自己肯定感を高める

ダウン症の生徒は、身体を動かすのが大好きである。現在、ヨーガ部の指導をしている。中心メンバーはダウン症の生徒たちであり意欲的である。得意なものを認め、自己肯定感を高めると、安定した時間も増え、指示も通りやすくなる。


※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/