見出し画像

不登校の子どもたちをどのように理解し関わるか~実践編~1 不登校の治療目標と対応手順①

小柳憲司(長崎県立こども医療福祉センター 小児診療科)

1 不登校の治療目標と対応手順①

 実践編では、不登校になった子どもの成長をどう見ていけばいいかを追っていきます。
 不登校の子どもが最終的にどうなってほしいかを、医療的に「治療目標」といいます。何を目標に関わるのか、ということです。
 保護者は病院に来て「子どもの不登校をどうにかしてください」と言われます。しかし、単純に学校に行けるようになればいいのではありません。来院した子どもに対して、私は「君が学校に行けるようになるために治療します」とは言いません。大事なことは、大人になったときにしっかり社会参加ができるかどうかです。最終的にはそこを目標にします。子どもが1〜2年でまた元気に学校に行けるようになればいいのですが、そうでない場合は、将来的にどうやって生きていけばいいのかを考えていきます。
 そのために大事なことは、一度失われてしまった子どもの自信を取り戻すことです。でも、子どもの中には、そもそも自信がない子もいます。その子には、最初に自信を付けていくことから始めます。
 そして、もう1つは人との関わりです。人間関係のスキルは人との関わりの中でしか習得できません。できるだけ家族以外の人とも関われるようになるのを目標にします。子どもには「あなたが大人になったときに、自立して生活ができるようになることが大事だよ」と説明しています。直接的に「学校に行きましょう」とは言いません。学校に行くことだけを目標にしてはいけないのです。
 次に、不登校はどのように始まるのかを紹介します。(下図1参照)

子どもがどのように学校に行かなくなるかというと、1つはその子自身がもっている素因(生物学的素因)が関係します。そこに、その子を取り巻く家庭や地域社会、通っている学校も関わっています。その環境の中でその子が生きてきた生育過程と生活体験が背景(準備因子)として存在し、そこに何らかのきっかけとなる出来事が加わって不登校が始まります。きっかけは様々です。例えば先生から叱られたとか、友達とのトラブルがあります。人間関係以外では、風邪やインフルエンザで休んだことなどがきっかけになることもあります。
 不登校が始まったという点で見ると「きっかけ」は重要ですが、あくまで、きっかけは不登校の誘発因子にしかすぎず、より大事なのは「背景」です。不登校において「背景」は発症の準備段階という意味で「準備因子」と言います。不登校では背景が本当は大事だということを覚えていただきたいと思います。
 基礎編で紹介したストレス耐性は、生育過程・生活体験に関わっています。ストレス耐性はその子が生きてきた過程の中で培われていきますから、きっかけを操作しても、不登校が良くなる訳ではありません。例えば、友達とけんかをして学校に行けなくなり、友達と仲直りしたら行けるようになるかと言えば、そんなに簡単ではないということです。
 不登校の対応に必要なことは、その子がなぜ学校に行けなくなったのかを理解しようとする姿勢です。すべてを理解できるわけではありませんが、理解しようという「姿勢」が大事なのです。相手を理解するために、まず不登校になったストーリーを考えるようにしています。(下図2参照)

「この子は、こういったことがあって、こんな経緯をたどって、こうなった」という物語です。そのために、その子に関する情報をどれだけ集められるかが鍵になります。ただし、気を付けなければならないのは、治療するとき、自分が考えたストーリーにとらわれすぎないということです。ストーリーの中で、「これが不登校の原因だ」という事項が見つかったとしても、それを解決すれば治療できるというものではありません。ストーリーは、自分が、その子と家族のしんどさ、辛さを理解するために必要なものなのです。
 子どもを理解しようとする姿勢は、子どもとの信頼感につながっていきます。「頭が痛いから学校に行けません」といって受診した子どもに、医者が「学校に行きたくないから頭が痛くなるのではないか」と言うと、「僕は頭が痛いから病院に来たのに、学校に行きたくないからだと言われた!」と、その子は二度と病院には来なくなります。その子が「頭が痛い」と訴えているなら、「ああ、頭が痛いのだね。そこを治していこうね」と、その子の訴えやしんどさを受け止めてから対応することが大事です。その子や家族の苦しさを理解しようとする姿勢を見せないと、医者が何を言っても相手の心には響かないので、治療は何も進まなくなります。

(2.不登校の治療目標と対応手順② へ続く
※2以降はマガジンご購入かメンバーシップご登録で読めます)


小柳 憲司(こやなぎ けんし)
長崎県立こども医療福祉センター副所長/長崎大学医学部・教育学部非常勤講師/長崎医療技術専門学校非常勤講師
長崎大学医学部卒業後、長崎大学医学部付属病院などで一般小児科の研修を行う。
こども心身医療研究所、NTT西日本長崎病院小児科を経て、平成13 年4 月から長崎県立こども医療福祉センター勤務。 専門は小児科学、心身医学。
【著書】
『子どもの心療内科』(新興医学出版社) /『学校に行けない子どもたちへの対応ハンドブック』(新興医学出版社)
【分担執筆】
『小児心身医学会ガイドライン集̶改訂第2 版̶』(南江堂)/『初学者のための小児心身医学テキスト』(南江堂)


※この記事は2020年2月1日発行の『TOSS特別支援教育 第14号』に掲載されたものの再掲です。
また、この記事は2019年6月22日に行われた「TOSS特別支援教育セミナーin東京」での講演を基に構成されています。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。

※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/

ここから先は

0字

メンバーシップ会員にご登録いただくと、「ささエる」のすべての記事の閲覧に加え、メンバーシップ限定の教…

ささエる会員購読

¥600 / 月
初月無料