<ミニ特集>あの子の学習の苦手さに対応する合理的配慮(中学校)
図読法+マルチセンサリーで文章を読み取る
文章の読み取りが苦手な子たちがいる。図読法とマルチセンサリーを活用することで物語を理解し、思考できる体験をさせる。
北海道公立小学校教諭 吉田沙智
知的学級として入学してきた4人は国語で教科書の音読練習をすると、どの子もスラスラと音読した。しかし、文章読解学習に入ると、途端に授業の歩みは遅くなり、ある子は固まり、ある子は目に涙を浮かべ、ある子は悲しみの表情を浮かべた。
4人のWISC検査言語理解の数値は60台後半から80台前半。彼らは「文章を音声に変換する」作業はできても「文章を映像や図に変換する」作業については苦手さを抱えていたのである。
そんな折、椿原正和先生の図読法を知った。図読法とは「文章を図に変換したものを活用する」ことを明確に取り入れた指導法である。
図読法ならば、物語教材において「お話が見えてくる」「見えてきた内容を基に、思考できる」体験をさせてあげられる。
当時、中学二年生。4人のうち2人は地元の普通高校進学を希望して学習を続けていた。まず、その2人に「ごんぎつね」を教材にして図読法を行った。
「場面ごとに図を作成する」学習では、まず私が手本を見せ、それから一緒に各場面を図にしていった。繰り返し図を作成することで図の作成がスムーズになった。
次に、その場面ごとの図を一覧表にして渡し「ごんの行動の変化」「クライマックス」「主題」を問うた。こんな発問をしたこと自体が初めてであった。2人は一覧表を基に自分の意見を書き、そう考えた理由を記述した。そうした姿も初めてであった。
更に驚くべきことは、学習最後の感想に2人とも「次は、自分1人で図を作成できるようになりたい」と学びに前向きな姿勢が生まれていたことであった。
続いて私は、4人のうち支援学校に進路希望を変更した2人に「特別支援道徳」で図読法を取り入れてみた。
範読後に2人とやりとりしながら場面毎の図を作成した。再話する時に「図を指でなぞって読ませる」マルチセンサリーを取り入れた。こうすることで2人はお話の内容が理解でき、本題について自分の意見を言えるようになった。
参考文献:『国語教科書の読解力は「図読法」でつける 〝作業〞で物語の〝構造〞を読み取る指導法』(椿原正和著 学芸みらい社)
【特徴】
・知的学級の4人の生徒。
・入学当初、全員が地元の普通高校進学を希望していた。
・1年後、2人が地域の支援学校に希望変更した。
・文章の音読はスラスラ読める。
・1字読解は取り組める。
・文章を読み、人物関係や情景を図や絵にすることが苦手。
・内容について問われると、思考が停止してしまう。
NG 対応文章資料のみで発問しようとする
スラスラ音読できるからといって文章の読み取りもできると判断してはいけない。彼らは「文章を音声に変換する」作業は得意としてきたようだが、「文章を絵や図に変換する」作業はあまり体験してこなかった。このような状態で文章の中身について問うてしまったら、「固まる」か「涙ぐむ」か「悲しい表情を浮かべる」ことしかできない。お話の読み取りは本来楽しいはずで、彼らにそんな悲しい思いをさせてはいけない。
効果のあった対応1 場面ごとに登場人物の「言動」をシンプルな「図」にする
場面ごとに登場人物を見付け、〇で囲ませる。登場人物の言動を見付け、線を引かせる。先生と一緒にやりたい子は自信がもてるようになるまで一緒に行う。「誰が、何を、どうした」となるように矢印を引き、選んだ言葉を書き込んで完成。
効果のあった対応2 完成した図をマルチセンサリーを使って「再話」する
長い文章が図に変換されている。それを指でたどらせながら再話させる。今度は図を5文程度の短い文章に変換させるのだ。「目で図を見て」「指で図をたどり」「口で図を文に変換したものを」「耳で聞く」ことで理解を促すことができる。
効果のあった対応3 全体図読一覧を使って検討する
場面ごとの図を一覧にした紙を渡す。一目で「登場人物の変化」が見付けやすい。「クライマックス」が1つか2つに絞りやすい。知的学級の子供たちが「お話が見えた」と実感できるアイテムとなる。
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