4つの手立てで子供の痛みに寄り添う。いつも一緒に、解決の道を探して
子供のつらさ・苦しさに共感する。どんな時でも寄り添い、一緒に解決策を考えていく。
広島県公立小学校教諭 平田千晶
ある年、小学2年生のソウタくん(仮名)を担任しました。
4月、ソウタくんは突然、次のように言いました。
「先生、僕のことを殺してください。僕は悪い子だから、消えてなくなればいいんだ」
私はびっくりしました。どうしてそんな言葉が出るのでしょうか。
ソウタくんには、友達を叩く・殴る・突き飛ばすなどの行為(他害行為)や手近にあるものを投げつける・切り刻むなどの行為(破壊行為)が見られました。
そのため、注意や叱責を受けることもありました。
その結果、自己評価が下がり、自信をなくしてしまっているのです。
こんなに小さい子がこんなにつらい思いをしているなんて……。
「先生は、ソウタくんがいなくなったら、とってもさみしいよ。
先生は、ソウタくんと一緒にいっぱいお勉強したいし、いっぱい遊びたいよ。
ソウタくんと一緒にいたいよ」
話している途中で、涙が出て来ました。
ソウタくんは、私の目をじっと見つめていました。
そして、小さく小さく何度も何度も頷きました。
ある日、興奮気味に友達に絡んでいるソウタくんに、声をかけました。
「ソウタくん、落ち着かないんだね。いらいらするんだね」
ソウタくんは泣きながら、うんうんと頷きました。
泣きじゃくりながら、次のように言ったのです。
「先生、僕ね、いらいらして、いらいらして、どうしようもないんだ。
苦しくて、苦しくて、仕方がないんだ」
ソウタくんは、このイライラを何とかしたいと思っているのです。
しかし、イライラを抑えきれず、友達に嫌なことをしてしまいます。
でも、そのあと、「やらなければよかった」と自己嫌悪に陥ってしまい、激しく自分を責めるのです。
私は、「どんな時でも徹底的に寄り添う」と決めました。
次の4つの手立てが効果的でした。
①ソウタくんの「つらさ」「苦しさ」に共感する。
「イライラするよね」「つらいよね」
「自分ではどうしようもないんだね」
このように声かけをするだけで、落ち着くことが多くありました。
ソウタくんに寄り添うことで、私の話にも耳を傾けてくれるようになりました。
②どうやったら落ち着くことができるか、一緒に考える。
「ソウタくん、イライラして仕方がないんだよね。自分でもなんとかしたいんだよね。
だけど、抑えきれなくて、苦しくて仕方がないんだよね。
イライラしちゃって、友達に嫌なこと言ったりやったりしちゃうんだよね。
でも、やった後、いつも、『やらなければよかった』って思うよね。
自分で自分のこと、嫌だっていうよね。
先生はね、ソウタくんがそんな風につらそうにしているのを見るのが、とってもつらいんだよ。
だからね、どうやったら落ち着くことができるか、一緒に考えよう」
ソウタくんは、次のように答えました。
「教室の外に出て、気持ちがおさまったら帰ってくる」
ソウタくんが決めたことを受け止め、励まし続けました。
③教師が介入支援をする。
それでもトラブルになることはありました。
教師が間に入って話をしました。
時には、ソウタくんがどうしても落ち着かず、話ができない場合もあります。
「ごめんね。
ソウタくん、今日、いらいらしているみたい。
ソウタくんの代わりに先生が謝るからね。ごめんね。
ソウタくんのこと、今日は、そっとしておいてあげてほしいのよ」
教師が介入することで、トラブルのほとんどはすぐに解決しました。
④周りに状況を伝える。
ソウタくんの状態を周りの子供たちに説明しました。
「ソウタくん、今ね、いらいらしているけれど、それはハヤトくんのことを怒っているわけではないのよ。
別のことでいらいらしているだけなの。
今はそうっとしておいてくれると、先生、とってもうれしいなあ」
周りの子供たちも理解を示し、トラブルが激減しました。
これらの取り組みの結果、ソウタくんの状況は徐々に改善されました。
ソウタくん自身も自分の感情をコントロールすることができるようになりました。
子供一人一人に寄り添い、一緒に解決策を見付けることの重要性を学びました。
© 2023 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.Printed in Japan
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