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小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第49回 【あらためてADHDとASDの教育現場における課題を考える④〜衝動性対応は、環境と大人の支援によって変化する〜】

 大好評の編集長日記「小嶋悠紀の特別支援教育コンパス」は、毎月第1、3木曜日に更新されます。
 特別支援教育の第一人者である小嶋編集長の貴重な知見が惜しみなく盛り込まれた、読みやすいのにDEEPな知識まで得られる連載です!
 この連載はメンバーシップ限定記事ですが、第1木曜日はどなたでもお読みいただけます。

今回の連載シリーズでADHD(注意欠如・多動症)の「多動」と「不注意」について述べてきた。
 今回は「衝動性」である。
 衝動性は「ワーキングメモリの少なさ」によって起こる。ADHDという概念が世の中に登場した時に、向山洋一氏が講演やセミナーなどでよく話をされていたエピソードがある。
それは
「ジェットコースターから落ちたADHDの子」
である。
「とても楽しみにしていた遊園地。ジェットコースターで上に登っていく時に、目の前を蝶々が通りかかった。
 ADHDのその子は、ジェットコースターに乗っていることも忘れて、その蝶々を取ろうと身を乗り出してしまいジェットコースターから落ちてしまった」
 まさに「衝動性」の高さがこの事態を巻き起こしたと考えられる。
 何がこのような「衝動性」につながったのか?
 それは、「ワーキングメモリの少なさ」からやってくる、
「過集中」
が主な原因であると考えられる。
 自閉症の「ファンタジーの世界に入り込む」とはまた違う。
 ワーキングメモリが少ないことで、
「一つのことにだけ極度な集中を起こし、他のことがワーキングメモリ上から消えてしまう」
のである。
 そのため「過集中=衝動性の高さ」に繋がってしまうことが多いのである。
 しかし、よく考えてもらいたい。「ジェットコースターから落ちる」というこの事態はそもそも防げたのではないか? ということである。
 
1)そもそもジェットコースターに乗れる体の大きさなのか?そのための配慮は?
 そもそも蝶々を取ろうと乗り出したら落ちてしまうくらいの体の大きさの子を乗せて良いのか? 小さいならそのような事態に備えて「別オプションのベルトで固定」などの配慮ができたのでは?
 
2)大人がしっかりと隣に乗って止めることができたのでは?
 ADHDのような子がいる場合、大人がしっかりと隣に乗って、制御をかけるべきではなかっただろうか? 大人が寄り添うことで、行動を止める支援ができたのではないだろうか?
 
3)休日のお出かけの際であっても、テンションが上がることが予想される場合は、薬物療法を使わないのか?
 たとえ休日であっても、衝動性の高さから危険がある場合は、「薬物療法」をしっかりと用いたい。ジェットコースターから落ちてしまうレベルの子供であれば、遊園地に行く前に服薬の必要があったのではないか?
 
というようにいくらでも対策することができたと思われる。
今回は休日のお出かけで起こった事態であるが、対策については学校でも同じである。
 「席を立ってしまう」という衝動性に対しては、「刺激を少なくする座席」「立って授業を受けられるスペースを設ける」「短い休憩時間を設ける」などの「環境」を用意できる。
 また、授業の中で「ハンドサインを決めておくことで「立ってしまった際の席に戻る行動」を支援できる。
「衝動性」は大人が用意した「環境」と「支援」によって大きく変化する。
そのような「環境」と「支援」をしっかりと配慮していきたい。


●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。


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