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<荒れた中学校を立て直した! 人生を変える指導法>自己決定権は尊重するが主導権は渡さない④

(③つづき)

私は生徒に日記も書かせていますが、4月は多くの生徒が毎日1、2行です。

「疲れた」とか「何もない」とか。そこで、私が「つまらないと言うお前自身がつまらないんだよ」と書いても仕方ない。それは私もやるけれども、それはもう少し後、鍛えの段階に入ったらの話です。

初期段階では、私はたくさんコメントを書きます。書いて、書いて、書きまくる。すると生徒の文章が変わっていく。一学期が終わるころには、多く書く生徒で大学ノート4ページぎっしり。少ない生徒でも、5、6行書くようになります。

「4月の国語の授業で立つ子が1人もいない。5月も男子が立つなんてありえなかったのです。それが今日はRくんが初めに立ちました」

こういう文章を書いてくるようになる。女子が、嬉しくて書いてくるわけです。

「誰かを待ってちゃいけない、私が変わらなくちゃ、と思っています」

生徒が生徒のしがらみ、「互いにちゃんとやってはいけない。良い子になってはいけない」というしがらみを破り始めます。

「私たちは一度でも団結したことがあっただろうか。ない。そんなの一度も感じたことがない。その達成感を、今からでも遅くないんだったら、感じてみたい」などと書いてくる。こういう本音を、本当に書くようになります。

先に述べた、あのブスッとした女の子は、1、2行の日記から始まって、1か月間は1、2行のままでした。何を書いても1、2行。私のコメントは6行7行。毎日コメントをする。すると、ちょっと長くなりました。

次は、1ページぎっしり書いてあるのだけど、消しゴムで全部消してあって、その上に3、4行。次の日も1ページ書いてあるけれども消して3、4行。それはその子なりの葛藤です。ちゃんとやっていいのか、今まで通りでいかないと友達が怖いとか、様々に思い悩んでいたのだと思います。それが7月には2ページです。消さずに。ストレートに。
 
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最初から「鍛え」を受け入れる生徒集団ならばそうする。
しかし、目の前の生徒たちは、そうではない。
「日記を提出するのが当たり前」「長く書くのが当たり前」
こういう上から目線の思い上がりを、生徒は全力で拒む。
そのアセスメントをきっちりすることが4月にする重要な仕事である。
「鍛え」を受け入れない個人、集団にはどうするか。
受け入れる態勢ができたと判断できるまで、こちらが大きな愛と広い心で関わり続けるのである。
1、2行の日記に対する長文のコメントはそのひとつだ。
学級通信での、手を変え品を変えての趣意説明も有効だ。
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子供は、変わります。やっぱり教師が、途中であきらめずに続けることだなと思います。

学年で最も手のかかるA男が私と給食を片付けていて、ナンバー2のB男が初めて「手伝います」と言った時、周りは固まりました。唖然としました。そして、とっても嬉しそうな顔をしました。

掃除を今まで全くしなかった男子たちが、掃除開始1分前に職員室掃除を始めたことがありました。それを見た女子が「先生! これは奇跡です!」と言う。

私はその子に対して何と言ったか。
「そうか! 分かったぞ。あいつとあいつとあいつは、小学校一年の時から、俺たちの今この瞬間のこの感動のために、悪役を演じ続けてくれたんだ! 帰ったら感謝しよう!」

女子は、涙をぽろぽろ流しながら大笑いしました。帰りの会で「お前らに感謝する、ありがとう!」と告げ、一同笑顔で終える。そんな日が幾日も生まれます。

日々大小の問題を起こしてばかり、怒られてばかりだった帰りの会だったから、子供たちが「帰りの会って笑っていいんですね、先生」と、今はそんな日記も書くようになります。

まだまだ課題はたくさんあるけれども、それは成長を楽しみに、ということで。これからもっともっと具体的な工夫を重ねていこうと思っているところです。


 長谷川 博之
NPO法人埼玉教育技術研究所代表理事。TOSS埼玉志士舞代表。日本小児科連絡協議会「発達障害への対応委員会」委員。全国各地で開催されるセミナーや学会、学校や保育園の研修に招かれ、講演や授業を行っている。また自身のNPOでも年間20回ほどの学習会を主催している。


※この記事は2016年2月1日発行の『TOSS特別支援教育 第2号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
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