見出し画像

お母さんの0.5歩前を歩いて、子供を伸ばす

お母さんのペースに合わせて、子供にとって益になることを相談する。

兵庫県中学校教諭 大鳥真由香



Aさんは小学校から不登校が続いていました。
集団に入ることがしんどい、なかなか気力が湧かない、というお子さんです。
ご家庭の状況も苦しく、お母さんは心を許した人としか話せない人でした。前年度の担任は、家庭訪問や電話のたびに1時間以上お母さんの話を聞いていたと言います。
私が担任となり、週1回の家庭訪問を続けました。
週1回と決まったのは、Aさんとお母さんとの相談の上です。回数が増えると疲れてしまうので、これくらいがいい、という結論になりました。

Aさんもお母さんも「高卒の資格はほしい」と考えていました。
ですから、他のお知らせは見なくても、授業のワークシートなどをサラッと眺めていらっしゃいました。
ある日、若い先生が作ったあるワークシートがAさんとお母さんの目に留まりました。
そのワークシートをもとに、久しぶりに家で勉強の話をしたそうです。
家庭訪問をすると、お母さんがとても嬉しそうにそのエピソードを話されました。
家庭訪問の翌日、お母さんからお電話をいただきました。
「Aが勉強したいと言っています。何か、お力添えいただけませんでしょうか」

家庭訪問の度に課題を出し、答え合わせとして一緒に勉強することを考えました。
でも、それではうまくいきませんでした。
Aさんの学習の積み重ねができていなかったからです。
できないプリントを目の前にして、ガッカリした顔を見せることが続きました。

学校長の許可を得、オンラインを用いた学習を行うことを提案しました。
Aさんもお母さんも乗り気です。お母さんはすぐにWi-Fiの手筈を整えてくださいました。
そこから毎日、10~20分程度の学習が始まりました。
お母さんとは週1回、電話で話すようになりました。
Aさんの話もそうですが、お母さんのお仕事のことや生活のこともお伺いするようになりました。
暗い話題のこともありましたが、私自身は努めて明るく、ポジティブワードで返すように心がけました。
はじめ、お母さんは暗い声のときもありましたが、1か月・2か月……と進むにつれ、明るい声が聞こえるようになりました。
加えて、電話の向こうに車の音やスーパーのような音が聞こえるようになりました。
外出することが増えたようで、お母さん自身が元気になってきたのだと感じました。

学習を始めてから3か月たったころです。
Aさんが家から出られるように話をしました。お母さんには先に「こんな話をしますね」と伝えました。
「○○のプリント、取りに来ない?」「行きます」
「テストがあるんだけれど……」「受けてみます」
まさか「YES」が返ってくるとは思いませんでした。
初めて受けたテストには「0点」もありました。
「受けたことが尊いよね」と励ましました。
Aさんが積極的に行動するようになりました。
適応指導教室にも足が向くようになり、大人数が参加する行事も見学参加ができるようになりました。
Aさんのものすごい成長を見ることができました。


© 2024 TOSS,The Institute for Teaching-Skill Sharing.

※この記事へのお問合せはTOSSオリジナル教材HPまで。
https://www.tiotoss.jp/