苦しみのなかでもがいた初任1年目の実践
「共感」と「愛情」で変わった自閉情緒学級担任としての日々。
宮城県公立中学校教諭 木村南
初任1年目、私は自閉スペクトラム症の生徒の担任でした。彼は中学1年生、私は教員1年生。お互いに分からないことだらけの中、私たちは毎日のように口論をしていました。当時の私には、彼の言動がただの「わがまま」としか思えず、知識も経験もない私はただただ彼を怒っていました。そのようなことを続けた結果、ある日、私たちはお互いに感情が爆発し、大きく衝突しました。
その日を境に、私は彼とのかかわり方を見直しました。彼の「日常生活を安定させる」ために、私が大切にしたことは以下の2つです。
1つめは、「共感」です。対人関係が苦手、感覚過敏、強いこだわりがあるなどの特性を理解し、その特性が出た時にはまず、彼の気持ちに共感する姿勢を示しました。例えば、彼が休み時間が終わった後も大好きなお絵描きを続けていた時がありました。以前の私ならば、「いつまでお絵描きしているの。もう時間です」などと言って怒り、無理やり終わらせようとしていました。しかし、その時は「まだお絵描きしたいよね」と共感した上で、あと何分で終わりにするのか彼自身が決めるよう声掛けしました。その結果、彼は素直に時間を決め、スムーズに授業に入ることができました。
2つめは、「教師としての愛情」です。このことを意識するようになったのは、児童精神科医の佐々木正美先生の著書『子どもの心の育てかた』を読んだことがきっかけです。この本は、親に向けて書かれたものですが、毎日長い時間を生徒とともに過ごす教師が、知るべきことがたくさん書いてあると思います。
「子どもの言うことを、じゅうぶんに聞いてください。子どもののぞむことを、惜しみなく与えてください。それだけで、子どもの心は育ちます。」
この本を読むまでの私は、彼の様々な言動に対して常に「NO」と突き付けていたように感じます。彼の言動をどこまで良しとしてよいのか分かりませんでした。しかし、言動の背景を理解し、受け止め、可能な限り自由に取り組ませることで、彼は人間関係やルールを自分で学ぶようになりました。親からの愛情とは違っていても、私たちには教師として生徒に与えられる愛情があると思います。愛情をもって生徒と接することで、その愛情が生徒に伝わり、日常生活を安定させることにつながると思います。
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