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<ミニ特集>文部科学省調査「小中学生8.8%、発達障害の可能性」を考える②

教師が8.8%の子供対応の「指針」と「成功体験」をもてるかがカギ

発達障害・グレーゾーンの子に適切な対応ができるための教員養成・研修の仕組みは不十分だ。優れた実践から学ぼう。

日本文化大學 講師 木村重夫

1 対応の「失敗」と「荒れ」 

 私はかつて6年連続で六年生担任をした。五年生で荒れてしまったクラスがあった。担任の「手に負えない子」が複数いた。「手に負えない子」の障害の特性を理解した上での適切な対応ができなかったために、関係をこじらせて二次障害を生む。その子たちに影響を受けてクラス全体が落ち着かなかった。
 特別支援対応は、小中学校の新卒教員が最初にぶつかる壁である。発達障害・グレーゾーンの子への適切な対応ができずに授業や学級経営で悩む。新卒からベテランまで、特別支援教育を真摯に学ばない教師のもとでクラスが荒れ、学級崩壊するクラスまで生まれている。

2 学べていない教員養成の場

 教員を養成する大学で、8.8%の数値を前提とした特別支援の対応や指導法をきちんと教えているだろうか。一部を除いてカリキュラム・指導教官ともに不十分である。小中学校の現場で、専門的な知見を学び、試行錯誤を経て子供たちに向き合ってきた、指導力のある教師が大学生に教える機会はあまりにも少ない。
 特別支援の対応に悩む新卒教員からベテラン教員まで必読の本が出版された。
 小嶋悠紀著『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全』(講談社)である。
https://www.amazon.co.jp/dp/4065311608?tag=note0e2a-22
 著者の小嶋氏はまえがきで「約20年間で2000を超えるケース」に関わってきたと述べる。その中で成果のあった「100の考え方やスキル」を紹介している。専門的な知見、海外の先進的な教育現場の視察に裏打ちされた、きわめて具体的な経験則である。

3 先駆者の実践との比較

 私自身のかつての子供対応を振り返り、「今ならこう対応した方がいいな」と考えながら小嶋氏の著書を読んだ。


小学六年生女子。算数が大の苦手。ノートに計算がなかなか書けないの
で、私が赤鉛筆で薄く書いてやり、その子になぞらせようとした。とこ
ろが、その子は私の手を払いのけた。


 「先生に書いてもらったことが分かってママに叱られる」と言う。
私の赤鉛筆が濃かったのかと反省し「薄く書くからいい?」と言っても拒否
する。私は咄嗟に言った。


そうか、じゃあ、黒鉛筆で薄く書くならどうかな? これならいい?


 こっくりとうなずいた。今度は受け入れてくれたのだ。小嶋氏の著書に似ている場面があった。

「ポイントは子どもに選択させている点にあります。(中略)選ばせることで、大人が決定権を維持したまま、子どもの主体的な選択で望ましい行動へと誘導することができるのです」(P.185)
 私は就学前の男児に簡単な読み書きなどを教えている。その子がテーブルから落とした鉛筆やペンなど、「拾ってね」と言うと「やだ!」と言う。根負けして私が拾っていた。こう言うべきだった。
「自分で片づけますか? それとも先生と片づけますか? 選んでいいよ」(P.185)

(前掲書)

 「選んでいいよ」があるとないとでは、主体性の発揮という点で大きく異なる。


 小学二年生女子。一年生で不登校傾向。
 進級をきっかけに登校した日、机に向かってノートに書いていた。片足を通路にドッカと出していた。私は「足入れようね」と手で足を押した。次の時間、保健室でその子はシクシク泣いていた。
「木村先生に足を押された……」


 男性教師の突然の対応が「強引さ」「圧力」に感じたのだろう。似たシーンを書いた小嶋氏の著書を読む。
「『足をおろしなさい』と大人が指示するのは高圧的かつ否定的で、成長につながりません。私だったら、『集中してるね』と、子どもに共感し、認める声かけをしながら、マンガのようにスッと足に触れます。(木村注:手の甲で軽くタッチ)触れることで〝足をおろさなきゃね〞と子ども自身が気づくように導くのです。」(P.75)
「手のひら」と「手の甲」。わずかな違いのようでその差は大きい。

4 指針と成功体験

 大学や学校において、「システム」として優れた特別支援対応を学べることが一番望ましい。学校ならば校内研修で学ぶ。
 小嶋氏の本はテキストになる。特別支援の「指針」になる。指導の「成功体験」を増やすことができる。教師と子供たちにプラスの影響が広がるだろう。


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