<“あの子も変わった”教室での実践記~特別支援学級編~>居場所づくりで感覚過敏に対応する
聴覚や視覚の刺激に過敏な自閉スペクトラム症の子供の刺激を調整する。
山梨県特別支援学校教諭 TOSSフラミンゴウズ 武井 恒
一 感覚の過敏さ
自閉スペクトラム症の子供たちに次の特徴をもつ子が多い。
感覚の過敏さ
例えば、触られるのを極度に嫌がったり、大きな声や音に敏感だったりする。
私が担当したK君(中学部二年)も、聴覚と視覚に過敏さをもった生徒だった。
特に、大きな声が苦手で、聞こえると表情が曇り手で耳をふさいでいた。しかし、手では音を防ぎきることはできない。
二 聴覚刺激を調整する
音を防ぐには、2つのアプローチがある。1つは、周りの人に配慮してもらい、できるだけ小さな声で話をしてもらうことである。もう1つは、本人が音に慣れることである。
学校に限らず、音がない世界はない。世の中には音があふれている。周りの人に配慮してもらうことには限界がある。だからこそ、その音の中で生活していく方法を考えていく必要がある。
しかし、いきなり音に慣れさせることは難しい。そこで、一日中イヤーマフ(写真1)を着けることから始めた。イヤーマフは本来、激しい工場騒音や建設機械、空港、農作業で使用する。雑音だけを除去し、話し声は聞こえる。つまり、必要な音だけを拾うことができる。これにより、人が大勢いる場所での大きな声や雑音などの聴覚刺激は防ぐことができた。
しかし、視覚刺激は防げない。人間の情報は目から得るものがほとんどである。
K君は人が大勢いる場所を極端に嫌った。それは、聴覚刺激だけでなく、視覚刺激も多かったからである。だから、当初、人がいる教室や体育館に入ることが難しかった。
三 視覚刺激を調整する
まずは、教室に入ることを目指した。掲示物等をできるだけ少なくし、席を壁際にした。しかし、友達が大勢いると、なかなか入れなかったり、入ってもすぐに教室を出て行ってしまったりした。
そこで、段ボールで作った「Kのいえ」(写真2)を隅に置いた。高さ1メートル程度の大きさの段ボールの一辺に切り込みを入れ、紐で取っ手を付けて開くドアのようにした。中には、K君の好きな飛行機のイラストを貼った。
まず、私が中に入ってみせた。不安な表情で見つめるK君であったが、一度入ると気に入った様子であった。
次からは何も言わなくても、自ら「Kのいえ」に入る様子が見られた。
これにより、すんなり教室に入ることができるようになった。囲まれていることで、視覚刺激が遮られる。また、狭い空間も安心できる様子であった。
中から友達の声を聞き、様子を見て、集団での活動へも参加できるようになった。疲れてきたら、自分から「Kのいえ」に戻る様子も見られた。
次は、別教室や体育館へ入れることを目指した。「Kのいえ」の半分程の大きさの段ボールで「ミニKのいえ」(写真3)を作った。
教室移動の際に持ち運び、その場所で設置する。これにより、体育館の端ではあるが、入ることができるようになった。広いところでも、自分の居場所があることが安心感につながる。
居場所がなければつくる
という発想である。全校(200名以上)が集まる場でもその場にいられることが増えた。
四 支援をフェードアウトする
次第に授業にも取り組めるようになったK君は、楽しみながら学校生活を送っている。
今後は、支援を少しずつ減らしながら自信をもたせる指導が必要である。例えば、「Kのいえ」の囲みを低くしたり、底部分だけのシートにしたりすることが考えられる。
これまで紹介した支援はあくまでも、きっかけづくりである。必要な支援があることで、教室に入ることができ、授業に参加することもできる。自信がもてると、態度も変わる。
もちろん、障害特性に配慮した支援は必要である。しかし、いつまでも同じ支援をし続けることがよいとは思わない。
必要な支援を必要なだけする
という視点が大事である。過剰な支援にならないよう、今後も取り組んでいく。
※この記事は2015年10月1日発行の『TOSS特別支援教育 創刊号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
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