<乱暴な行いをするあの子…どう対応する?>「生徒が変容する」指導はできているのかを疑う
全ての行動には意味がある。目の前の現象だけを捉えての指導では、生徒は変容しない。
高知県公立中学校教諭 中川 貴之
彼はこだわりが強く、自分の間違いを認めることを苦手としている。
当然、周囲からの反感を買い、ストレスが溜まる。
そして、ストレスが満杯になるとキレて暴れ出す。
一学期、授業中に突然机を蹴倒して、バスケ部員に暴言を吐く。
側にいた正義感の強い生徒は、なだめようとした途端に左頬を殴られた。
日常的に彼は、授業中にふて腐れて机に伏せたり、指示に従わずに適当な解法で問題を解いたりした。
多くの中学教師は、このような態度を見て「ちゃんとしろ!」と力技の指導をする。
その結果、彼は何も変容しない。
ストレスを更に溜めているだけである。
スッキリしているのは、指導したと勘違いしている教師のみ。
彼を観察すると、日常生活で多くのサインを出していることが分かった。
そこで、全教師で彼への指導方法を統一した。
行動の意味を考える。
休み時間のこと。廊下から大きな物音がした。
彼が壁を叩きながら歩いている。人への危害はない。
彼の側をついて歩くと、そのまま保健室へ入って大泣きを始めた。
落ち着いた後、事情を聞くと、教室で暴れそうになったそうだ。
そこで、我慢をしながら保健室まで来たとのこと。我慢できたことを強く褒めた。
そして、「壁を叩いた手は大丈夫か」と聞いた。壁を叩くことはよくないことを教えた。壁の件を叱責しなかった指導を、彼は素直に受け入れた。大きな手応えを感じた。
また、教室内での彼の立場を高める必要がある。
彼とは授業だけの繋がりである。そこで、形に残る方法で褒めることにした。一筆箋だ。
運動会の応援合戦で、彼は誰よりも大きな声を出した。
その事実を、一筆箋にして渡した。
一年の学級通信でも全校の手本となった彼を紹介した。通信をプレゼントして、三年生全体へも紹介した。
先日、彼の母親に声を掛けられた。「お手紙をありがとうございます。随分と彼の励みになりました」
教師の対応一つで生徒は救われる。
【特徴】
・中学三年男子 診断名:自閉スペクトラム症
・何事にも精一杯取り組む。いつもON の状態で緊張している。
・こだわりが強く、自分の間違いを認められない。
・ストレスが溜まると固まり、満杯になると突然キレだす。
・興奮状態になると手が出てしまう。(180cm、70kg)
・周りの生徒からの評価が気になって仕方がない。
・バスケ部に所属。ワンマンプレーが多く、よくトラブルになる。
NG対応 目の前の行動だけを捉えて叱責や指導をする
教師の簡単な指示に従わない。場に相応しくない行動をとる。
生徒がこのような態度をとる場合、教師はすぐに強い口調で指導をする。その結果、ストレスだけが溜まり問題行動は減らない。
このような指導をする教師は、強い指導こそが、よい指導であり、優れた教師の証であると勘違いをしている。
効果のあった対応1 行動の意味を常に考える習慣を教師が身につける
最悪の事態になる前に対応するのが基本。ストレス要因を意図的に除去する。
不適切な行動を見て、いきなり叱責しないことを全教師に徹底する。
全ての行動には意味がある。行動の意味を考える習慣を教師自身が身につける。
効果のあった対応2 加害者にしないための間合いをとる
人に暴力をふるう場面は断固として止める。
しかし、一度暴れ出したら冷静な判断はなくなる。教師が、生徒の興奮を収めるために身体に触れるセロトニン対応をする場合も、一定の間合いは保つ。
全ては本人を加害者にしないため。
効果のあった対応3 形に残る方法で褒める
こだわりが強い、キレて暴れるなど周囲の生徒は少なからず被害を受けている。
だからこそ、生徒のよい所を1つでも多く見つけて褒めることが必要になる。言葉だけでは足りない。
形に残るものが効果的だ。通信や一筆箋を多用する。
※この記事は2016年2月1日発行の『TOSS特別支援教育 第2号』に掲載されたものの再掲です。
一部、名称等が当時のものになっていることがありますこと、あらかじめご承知おきください。
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