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小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第45回 【あらためてADHDとASDの教育現場における課題を考える①】

 大好評の編集長日記「小嶋悠紀の特別支援教育コンパス」は、毎月第1、3木曜日に更新されます。
 特別支援教育の第一人者である小嶋編集長の貴重な知見が惜しみなく盛り込まれた、読みやすいのにDEEPな知識まで得られる連載です!
 この連載はメンバーシップ限定記事ですが、第1木曜日はどなたでもお読みいただけます。


まず、この問題を考える上で、しっかりと押さえておきたいことがある。
 それは、
「発達障害の診断名で特別支援教育を語る時代は終わっている」
ということである。このことを明確にしておきたい。
 私自身も、これまでの教員経験を踏まえ、現職の発達支援アドバイザーの立場として、はっきりと言えることがある。それは、
「診断名にとらわれると、必要な支援を見失いやすくなる」
というということである。
 
 「診断名別」に対応法をはっきりと分けることは、特別支援教育が浸透していく初期では極めて重要であった。
 初期の段階では、「発達障害」「通常学級における特別支援教育」という概念を浸透させることがとても重要であった。
「ADHDは〜のような症状がある。だから、〜という対応が必要になる」
「ASDの子供は〜が苦手である。よって〜という配慮をする必要がある」
という単純な支援方針の決定は、実はとても分かりやすい。
 それと同時に、
「通常学級に発達障害の子供がいるということを認知させる」
「通常学級の先生たちであっても特別支援教育スキルが必要であるという概念をつくっていく」
ことをするのにとても有効だったのである。
 しかし、この10年で大きな変更が生じた。
 それは、DSMーⅤの更新による診断基準の変更である。
「ASDとADHDの併存診断が可能になった」
 これはとても大きな変更点であった。しかし、やはり、日本の特別支援教育はそのことに反応しきれていない。概念がある程度浸透した現在であってもである。
 
 私は以前から、「保育園支援」を行いながら、子供たちの発達を中学卒業まで追いかけていた。
 診断基準の変更があった当時、私にとってこの変更は非常に納得がいくものだった。それは下記のような経験があったからだ。
「立ち歩きがすごい落ち着きのなさがあるのに、こだわりが非常に強い子供がいる」
「ASDなのにワーキングメモリが極端に弱くせっかちな子も多い」
「多動が高学年からかなりの確率で改善されていく事例が多い」
「高学年になるにつれて、自閉のこだわりが強く発揮されてしまう事例が散見される」
というものだった。
 私自身が二次的障害を抱える子供たちを多く担当している時だったからこそ、気付いたことなのかもしれない。
 ほとんどの発達障害の子供がADHDとASDを併存している。
 そのことで、それまでの「診断名→その障害の対応」というパターン化された対応が通用しなくなる現実があったのだ。
「障害名にとらわれるのではなく、生育歴・行動歴・教育歴から、その子の特性と発達に合った支援を選択し、組み合わせることが特別支援教育の真髄」
ということができるだろう。
 
 しかし、まだまだ「支援を選択して組み合わせる」という前段階の知識として、「診断名→その障害の対応」くくりで様々な実践事例や状況を紹介し、多くの先生の参考にしてもらうことは必要であると考えている。今回の記事を承知の上で、このシリーズをぜひ読んでいただきたい。


●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。


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