小嶋悠紀の特別支援教育コンパス第35回 【日本で真のインクルーシブは実現できるのか?④】
2023年4月より「ささエる」編集長・小嶋悠紀の連載が始まりました!
「ささエる」本格オープンの11月からは毎月第1・3木曜日の更新となりました。メンバーシップ限定記事ですが、第1木曜日はどなたでもお読みいただけます。
今回は第1木曜日ですので、どなたでもお読みいただけます!
ここまで「Tier1のユニバーサルデザインやアセスメント」についてご紹介をしてきた。
次に「Tier2 通常学級内ので補足的支援」である。
ここでは、まだ「個別支援」という段階ではない。
日本では、「Tier1で伸びなかったら、即座に『特別支援教育の個別支援』へ移行」という流れが多すぎるように思えている。
しかし、Tier1の指導や支援で伸びが乏しかった場合は、
「さらに通常学級の中での補足的支援を展開する」
ことが重要である。
この部分がある意味で「インクルーシブ」に繋がってくるのではないかと考えている。
冒頭画像の「①個別支援 ②補足的支援」は、すべて「通常学級内」での支援を想定している。しかし、Tier1での「ユニバーサルデザイン化」を行って工夫している中で、「さらに工夫した個別支援の展開はどのようにしたら良いかが分からない!」という方も多いと思う。
そこで今回と次回では、私が実際に行っていた「通常学級内での個別支援・補足的支援」を具体的にご紹介していく。
まず下の写真であるが、これは私がASDの子供に使っていた「おたすけぶねカード」である。
過敏性の影響や調子が悪い時に、どうしても給食当番ができない、学習に取り組めない子供などがいる。
やろうと誘い水を向けても「ええーー!!」となったり、「やだよ! やらないよ!」と否定的で強い反応が返ってくることもある。
その時に、「じゃあしょうがないか」としてしまうと、「そのような不適応な行動や言動で要求が通る」という誤学習を与えてしまう。そこからASDの子の不適応が加速したり、それが周りの定型の子供にも影響を与えたりすることがある。
このカードは参加しづらいASDの子だけが持っているようにした。まさに通常学級内での「個別支援」であり「補足的な支援」だ。
「おたすけぶねカード」の概要は以下となる。
1)1日2枚まで使うことができる
2)使う場合は、「先生お願いします」の一言と一緒に持ってくる
3)使うとその参加を免除されたり、先生が手伝ってくれたりする
4)2枚使い切ったら次の日まで補充はできない
5)このカードを渡さない場合は、「自分でやるよできるよ」ということになる
このカードを用意することで、ASDの子との「やるの? やらないの?」「やろうよ!」というやりとりが極端に減った。
その結果、無用なプレッシャーやストレスをかけずに済むようになる。
叱るなどの指導が減ったという事例も聞く。
また、「子供が自分でカードを持ってくる」ということも極めて重要だ。
「自分にはこれはできそうにないかも」という自己認知を育てることができる。
「この子にはこれは難しい」というアセスメント材料にもなる。
その上、「持ってきたことでほめることが可能」というほめる材料にもなる。
小嶋学級ではこの“2枚”という枚数が絶妙だった。使い切ると他のことは回避できなくなるので、ストレスを抜きながら、必然的にできることが増えていった。
このような「補足的支援」で、通常学級でも参加できることが増えるのがTier2の支援である。
●小嶋悠紀プロフィール●
本誌編集長・元小学校教諭
(株)RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表
大学当時より発達障害の青年たちの余暇支援活動団体を立ち上げ発達支援に関わる。卒業後、特別支援を要する子供たちへの支援を中心に講演活動を行う。長野県養護教諭研究協議会において、全県の幼・小・中・高・特の1000名の養護教諭に特別支援の講演を行う。NPO法人長野教師力向上NETでも発達支援者育成部門を担当。
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